仏ジャーナリスト人質事件。犯行声明から24時間たって。

fenestrae2004-08-30


土曜日の夜(ヨーロッパ時間)臨時ニュースとして紹介したが、もう一度ごく簡単にまとめると。

フランス人ジャーナリスト2人がイラクでイスラム過激派グループに拉致
Deux journalistes français otages d'un groupe islamiste en Irak

イラクで金曜日から消息を絶っているフランス人ジャーナリスト、クリスチャン・シェノ、ジョルジュ・マルブリュノの2人がイスラム過激派グループにより人質に。グループは、フランス政府に48時間以内にイスラム・ヴェールに関する法律を廃止するよう要求している...
DOHA (AFP) - Deux journalistes français, Christian Chesnot et Georges Malbrunot, disparus depuis le 20 août en Irak, ont été pris en otage par un groupe islamiste qui réclame l'annulation dans les 48 heures par Paris de la loi sur le voile islamique ...

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政府は一夜明けた日曜日29日早朝に緊急危機管理閣議を開く。その後、内務大臣ド・ヴィルパンは内務省に国内の有力イスラム教団体各派の代表者を集め会談し、昼前に指導者たちとともに記者会見。人質の解放を呼びかけるとともに、フランスの非宗教の原則を明確に確認。イスラム教団体指導者たちもフランス政府への連帯を強調し、アラビア語での呼びかけも行う。その他、政党、労働組合、ジャーナリストたちも拉致行為を非難し、「フランスの民主主義の価値を守る」ため連帯を呼びかける声明を相次いで発表。16時半からエリゼの大統領官邸で首相、閣僚を集め危機管理会議。19時過ぎにシラク大統領が人質の解放を要求するテレビ演説。バルニエ外務大臣のカイロへの派遣を明らかに。

政府としては犯人の要求には屈しないという姿勢を明確にしながら、国内外のイスラム教徒グループ、宗教指導者の全面的支援をとりつけていく方針。ただし、犯人の実像が掴めていず、イラク人のグループなのか、イスラム宗教指導者たちの影響力があるかどうかさえも分からないのでこの政治的・外交努力は面倒なものになるとニュースのコメンテータたちは見ている。政治的要求が真剣なものなのか、身の代金目当てなのか、単に欧米人の殺害で威力を誇示するためなのか動機すらも不明。正面の外交戦術とは別にさまざまなルートから解放の可能性をさぐっているものと思われる。外務大臣が直接イラクに入らないのは、犯人たちとの直接取り引きするとの印象を与えるのを避け、まわりのアラブ諸国の外交支援をまず固めるためとテレビでは解説している。

国内のイスラム教徒の反応は早く、拉致行為のの非難、フランス政府との連帯に関しては明確なものだった。イスラム・ヴェール問題で禁止の法制化に基本的に反対の態度をとっていたイスラム教各団体も、法律が制定されてからは、組織決定で法には従うよう、もともと呼びかけていた(原理主義的傾向を有するメンバーを抱える 「UOIF Union des organisations islamiques de Franceフランス・イスラム組織連合 」だけは、基本的には従うが場合によっては対決も辞さないというあいまいな言い方をしていた)。土曜の夜のうちにパリの大モスクの代表者で、政府との関係でイスラム教各派を統括する 「CFCM Conseil français du culte musulman フランス・ムスリム評議会」の長でもあるダリル・ブバケールは「内政問題に関する許し難い干渉行為。法律の制定以降は法を遵守すべしというのがCFCMの組織決定だ」というコメントを発表している。UOIFのフアド・アラウィ副会長も同様に、「イスラムフランス共和国の関係はフランス特有の問題 une affaire franco-française で、このような干渉には反対する。」「われわれは法案の可決以来、法の遵守を呼びかけており、法の適用のしかたには監視を続けるが、これはわれわれの問題、フランスのイスラム教徒の問題」だと述べる。

UOIFには強硬派の下部メンバーもおり、ダブル・ランゲージによる戦術も指摘されているが、いずれにせよ、どの団体もこの問題が、国内のイスラム教徒のイメージに波及することを恐れ、最大限に犯人グループたちと距離をとろうと努力している。イスラムヴェール問題で強硬な姿勢をとるものでも、この人質問題でフランスの公的なポジションへの連帯を最大限に表明することで、ヴェール問題に関して一歩退却したところでの闘争を余儀なくされている立場の中で、世論に対しポイントを稼ぎたいという意図が見えないでもない。たとえば、UOIF の若い女性活動家の、聞く者を苦笑させるような過剰ともいえる−−ナイーブなあるいは聞きようによっては偽善的な−−次のような発言にそれが見え隠れする。「スカーフの問題が犯罪の口実に使われることは問題外である。私たちは人質を使った脅迫を拒否する。私は自分のスカーフが血で汚されることを拒否するため、スカーフをかぶる他のイスラム教徒の女性たちとともにイラクへ行き、人質の代わりとなる用意がある」。

フランス外のイララム教団体、指導者の声明も国内のものとほぼ連動している。アメリカへのビザを拒否されて最近新たに話題になったスイスのイスラム神学者タリク・ラマダンは、「フランス政府はこのような忌まわしい脅しに屈するべきではない」、「犯人たちは、フランスのイスラム教徒についての問題は、開かれた民主主義的対話によってのみ扱われるべきだ」と述べた。イラクウラマー協会、サラフィー派の団体、ヨルダンの原理主義的団体、エジプトの「ムスリム同胞団」も人質の解放を呼びかける声明を出している。

フランスはRFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)のアラビア語放送を通しこうした内外のイスラム教徒の連帯の声を伝え、さらに外交努力を続ける方針であるが、上に触れたように、こうしたメッセージの犯人に対する影響力は不明である。

犯人像に関しては、先に殺害されたイタリアのジャーナリスト、エンゾ・バルドーニ−−ただし死体もなければ、テープには殺害を示すシーンもないという指摘が出はじめている−−の解放のために努力していたイタリアの諜報機関の情報によるとして、イタリアの新聞がその一旦を伝えている(→AFP電による要約)。これによると、「拉致は通常2段階で行われる。地域にいる犯罪組織が第一段階を担当し、拉致した外国人人質を次にテロリストたちに売る。」そしてテロリスト集団であるイラクの「イスラム軍団」も「おそらくは2つのレベルの集団に分かれており、軍事部門が人質を担当し、戦略部門がメディア方面を担当、声明文を起草し、ビデオを制作しアラビア語のテレビ局に送りつける。」

日本の国内報道で気になったことに一言。上で見たように、「スカーフ禁止法廃止」の犯人たちの要求にどれだけの政治的な意味があるかについては、現在のところはかりがたいものがある。新学期直前のタイミングとはいえ、誘拐後10日たってから出てきたこの要求の真意は不明で、単なる口実という見方も多い。その中でこのニュースの主眼はあくまで、「フランス人のジャーナリスト2人が拉致」という忌まわしい犯罪行為に対しておかれねばならず、「スカーフ禁止法廃止要求」というのは、それを確認した後にくる副次的要素である。フランス語圏の報道はもとより、ざっとチェックした限りでは、英語圏、ドイツ語圏の報道もそういうヒエラルキーとなっている。一方、日本の報道では他国の報道に比べ、後者のスカーフのほうにアクセントが大きく置かれたニュアンスが見える。フランスの「スカーフ禁止法」(この名称についても正確とはいえない)が、日本でも話題となり人々の興味をひいたのは分かるが、もしこの事件の第一報に「イラク武装組織 スカーフ禁止法撤廃要求 仏記者2人拉致」(西日本新聞)どころか、「イラクの武装組織、仏に“スカーフ禁止法”の廃止要求」(読売新聞)のような見出しを用いれば、この行為の犯罪行為の側面にではななく、政治闘争の面に重きを置いていることになり、極端なことを言えば、犯人たちの宣伝活動の片棒をかつぐことになる。そうした政治的判断を持たず見出しを採用しているとすれば、あまりにナイーブすぎる。このナイーブさに比べれば、人質のフランス人の名前(Chesnot)をフランス語読みにしない幼稚な誤り−−アルジャジーラをニュースソースとしながらアルジャジーラのアナウンサーが正しく読んだ発音を聞いていないミステリアスな現象−−などはほんの小さなものだ。


◆追記 上の記事とだいたい同じ時点の情報でで書かれたリベラシオンの記事が media@francophonie で翻訳されている。併せて読まれたし。