中国/中国人、日本/日本人、フランス/フランス人 ...

ある時点の世論と国(政府)の対外的態度決定・表明とは異なる。イラク戦争の開戦にあたって、英国人、イタリア人、スペイン人の(大)多数が参戦に反対したが、英国、イタリア、スペインの政府はアメリカ政府の決定を支持し国として参戦した。だから「英伊西が米を支持」と書かれた。世論をもって「英伊西が米を批判」というニュースが配信されたら誤報と言われてもしょうがない。このばあい、どんなに単純化しても、「英国人(の多数)が米を批判」ぐらいのものだ。世論のマジョリティについてでさえそうなのだから、ネット上である運動があるということと、国の外交的意思表明を混同することは、なおのことよくない。

ところが、この簡単で大事な区別が中国にかぎっては、厳密でない傾向があるようだ。ブログや掲示板だけではなく、ちゃんとしたマスコミでも。

2日前の話になるが、

<台湾人気モデル>家族が陳総統支持、中国がネット上で批判
毎日新聞) - 8月12日19時58分更新

という見出しを見て、えっ?中国政府はそんな声明まで出すのかと思って記事を読むと、

日本の国土交通省が推進する「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の台湾親善大使で人気モデルの林志玲さんが、中国のインターネット上で批判を受けている。

ということだ。「誰が」というのがない。その後の文でも

台湾夕刊紙「中時晩報」などによると、中国のネット上には、林さんの母親が陳総統の支援団体に入るなど家族が熱心な民進党支持者であることから、林さんも同様に支持派と断定。「林志玲ボイコット、台湾独立滅亡」をスローガンに署名運動とともに林さんを起用した外資系企業の製品の排斥も求めている。

この文が日本語として正しいシンタックスをなしているかどうかどうも私には釈然としないが、ここでも「誰が」はない。が、常識的に判断して、中国政府が公式に呼びかけを行っているのではなく、ネット上でそういう運動がもりあがっているということのようだ。

とすれば、私の言語感覚の基準では、上の記事は見出しレベルでは「誤報」と言い切っていい。「英伊西が米を批判」が誤報であるのと同じ資格で。

これはネットに対する裏からの世論操作があるかどうかとはまた別問題で、その疑いがあるならばその旨書かなければならない。またネット上の盛り上がりが一般の世論をどの程度反映しているのかどうかも検証が必要だろう。

こういう見出しの作りかたが可能なら、あちらこちらの国の掲示板やブログをチェックして、「第二次大戦の捕虜虐待で英国が日本を非難」という記事を今日書くこともできれば、「日本がイラク戦争でフランスを支持」という記事も「日本がイラク戦争でフランスを批判」という記事も両方書けたことになる。

最近のローカルなはやりでいえば「日本が食人で中国を批判」「日本が中国国内の環境汚染で中国を批判。食品ボイコットも」などなどだろうか。