フランス思想の「いま」を伝える...官製サイト
しばらく前から気になっていたのだが、日本語のWebサイトで紹介されている気配がないのでとりあげてみる。
哲学を中心としたいわゆる「フランス現代思想」だけでなく、経済・社会・文化等々の領域での現在のフランスの話題を紹介するサイト。昨年夏にスタート。
フランス語版と英語版があってそれぞれ表紙が
- フランス語版 http://www.ideesdefrance.fr/-Page-d-Accueil-.html
- 英語版 http://www.ideesdefrance.fr/-Home-Page-.html
以前にフランス版CNNとして話題になったCFI(Canal France International)の派生的プロジェクトとして作られいる。国から予算が下りていて、外務省のサイトでも宣伝し官製のわけだが、ル・モンド、ARTE、France Cultureくらいのバランス感覚で作られている。アメリカの文化支配に対抗して、右から左までひっくるめて、食から哲学まで今のフランスの潮流を「フランス思想」ということで積極的にプロモーションしましょうというようなものだと思う(といってもあまり右的なものは見つけようがないけど)。皮肉な見方をすれば、かつての反体制知識人あたりが今やフランスの有力な輸出文化資源ということ。
なんだかんだいって現代のフランスの思想マップ、言論界の動きを知るのに便利で、最大の利点は、なんといっても全部の内容が英仏語版両方あること。特に、フランス語が得意でない人にお勧め。フランス語が読めるというだけで、一昔前の知識や限られた範囲の情報を頼りに「フランス通」とうことに特権的地位を見出している不勉強な人たち(って自分にもダイレクトにはねかえってくるわけですが)を、これでがががーんと追い抜いていきましょう。いやまじめな話、紹介しようと思い立って昨日から本格的に探索してあれこれ読みながら、けっこうよくまとめられている記事があるのに感心し、自分の不勉強ぶりを反省。
さて、内容はというと...これほんとは、私でなくて、モノの性質上フランス大使館がもっと宣伝すべきだと思うのだが...
とりあえず目にとまった内容をランダムにいくつか紹介(リンクはあえて英語版のほうに貼ります。フランス語版への切り替えは右上の国旗マークから。)
- 表紙ページの左のほうに世界(非フランス語圏)で話題になっているフランス人有名人の今週のランキングというチャートがあって笑えます(サーチエンジンで計算しているらしい)。政財界芸能あらゆる分野を含む。これらの人物にすべて人名辞典ページがついていて、昔日本でニューアカデミズムはなやかなりしころにあったフランス思想家カタログ本の「今話題のこの人をチェック!」みたいなノリの、もっとアップトゥーデイトで総合的なもの。ランクの下のほうまで見ていったら690人分あった。顔写真のカードめくりみたいのページもある。カタログ文化消費的に、ついでに顔でも親しみましょうという感じ。記述は簡単だが信頼がおけ、その人物に関連する主要なサイトにリンクがあるので、けっこう便利。
- 現在のトップの特集は「フランスからみた中国」。メイン記事のほかに右上のメニューからあれこれの記事に行けるが、日本人にとっても、フランスからみた中国を通して、現代中国を一歩下がってみる機会になると思う。この特集の中の他の記事として、フランスおとくいの現代中国について地政学的まとめ。また、残念ながらこれはフランス語版しかないが、フランス人専門家による中国四千年の地政学的戦略はやわかり講座のビデオ。これは4年前にTV局ARTEでやっていたシリーズのさわりだがなにせ四千年間の話をしているので4年くらいでは古くならない。紙芝居で説明してくれてフランス語がわからなくてもだいたいの内容は分かる。最後のほうは日本人にとってはかなりぞぞ〜とする図。
- 「フランスの知識人−新世代」と題する記事。
好きな人がだれか紹介してくれるといいのでは翻訳済み。chaosmosさんが訳してくれているアラン・バディウの「現代フランス哲学の展望」とつなげて読むと時代の流れがわかる。
- アーカイブズには、昨年末秋以降のフランスで大きな話題になった主題のだいたいがみつかる。他にも、フランスの大学におけるジェンダー・スタディーズの状況とそれをめぐる議論、ゲイの養子権をめぐる議論などなど。
- 新著、講演会などの新着情報コーナーに、今出ているのが、「ナショナリズムの危険に直面する東アジア L’Asie orientale face aux périls des nationalisme」という本を著した Barthélemy COURMONT という東アジア専門の政治学者が1月31日に行う(行った...これを書いている数時間前だ)講演会の案内。当然日本はその中で扱われている主役になるわけで、外から心配されているようすがわかるというもの。あと、姉妹項目に映画、音楽、科学技術およそありとあらゆる分野の新着情報がある。
と、いうことで宣伝おしまい。ふう〜っ。最近反政府言辞が多かったので、これくらいは体制協力しておいてもいいでしょう。
英語版のほかに日本語版もあるともっと便利だろうから、だれかそれなりに名前のある人たちがフランス政府に企画書を書いてみれば、予算が下りて、お弟子さんたちの小口バイトくらいにはなるのかも。案外すでに準備中かもしれませんが。その辺のことはよくわからないので単なる思いつき。