9.11委員会報告書-- Outline of the 9/11 Plot

アメリカを対象とした同時多発テロの案がアルカイダの中でどのように生まれ、実際に9.11の具体的計画にどう決定されていくかの経緯。なかなか具体的で内部事情がここまで調査できているのかと感心したが、実は主謀者とされるハリド・シェイク・モハメド(Khalid Sheikh Mohammed、報告書中ではKMSと略記される)の供述(去年3月にアメリカに捕まっている)が屋台骨で、そこに他の「アルカイダメンバー」の証言を傍証にして構成したもので、肝心なところは報告書というよりむしろ容疑者供述書。捕まったテロリストが主謀者と称してベラベラしゃべるときそこにどういう意図や心理があるのかも考えに入れなければいけないだろう。

この報告書の中に Japan という語が一度だけ出てくる。日本の米国施設攻撃の案もあったというもので、日本のマスコミで大きく報道された。これも元ソースの当該個所を前後関係をまじえながら抜粋する。

It soon became clear to KSM that the other two operatives, Khallad bin Attash and Abu Bara al Taizi -- both of whom had Yemeni, not Saudi, documentation -- would not be able to obtain U.S. visa, Khallad, in fact, had already been turned down in April 1999, at about the same time that Hazmi and Mihdhar acquired their U.S. visas in Saudi Arabia.

Although he recognized that Yemeni operatives would not be able to travel to the United States as readily as Saudis like Hazmi and Mihdhar, KSM wanted Khallad and Abu Bara to take part in the operation. Accordingly, by mid-1999, KSM made his first major adjustment, splitting the plot into two parts so that Yemeni operatives could participate without having to obtain U.S. visas. He focused in particular on Southeast Asia because he believed it would be easier for Yemeni to travel there than to the United States.

The first part of the operation would remain as originally planned - operatives including Hazmi and Mihdhar would hijack commercial flights and crash them into U.S. targets. The second part, however, would now involve using Yemeni operatives in a modified version of the Bojinka plot : operatives would hijack U.S. commercial planes flying Pacific routes from Southeast Asia and explode them in mid-air instead of crashing them into particular targets. (An alternate scenario, according to KSM, involved flying planes into U.S. targets in Japan, Singapore or Korea.) All planes in the United States and in Southeast Asia, however, were to be crashed or exploded more or less simultaneously, to maximize the psychological impact of the attacks

Khallad has admitted casing a flight between Bangkok and Hong Kong in early January 2000 in preparation for the revised operation. According to his account, he reported the results from this mission to Bin Ladin and KSM. By April or May 2000 however Bin Ladin had decided to cancel the Southeast Asia part of the planes operation because he believed it would be too difficult to synchronize the hijacking and crashing of flights on opposites sides of the globe.

要するに、コマンドの中で二人のイエメン人がその国籍のためにアメリカのビザがとれずテロ攻撃に参加できなくなった。それでこの二人をはずすかと思いきや、仕事口をあてがうために、二人にとってビザのとりやすい東南アジア方面の計画案を追加した。そこでの基本的計画はハイジャックした旅客機を空中で爆発させることだが、別のシナリオとしては、日本、シンガポールあるいは韓国の米国関連施設に飛行機をつっこませる案もあった、というもので、枝分かれの枝分かれの案。むろんひょうたんから駒ということもある。こんな失業対策事業みたい発想から、日本が巻き込まれるのはかなわない。

それにしても明確に確認しておかなければならないのは、攻撃対象になっているのはアメリカ関連施設でその一つとして日本にあるものが可能性にあがっているということだ。アメリカの同盟国である日本そのものを狙うという発想ではない(すくなくともこの時点では)。ところがイラク戦争以降の状況の変化のなかでそのあたりがわれわれのイメージの中でごちゃごちゃになってはいまいかということを危惧する。報道の多くは日本の米軍施設ということを明示しているが、見出しレベル(「アルカイダが日本テロ攻撃計画していた」)や情報を単純化したブロッグレベルだとどんんどんその限定があいまいになっていく。飛行機が厚木基地あたりにつっこむイメージから新宿のど真ん中へのそれへ徐々にシフトしていってはいないだろうが。

ブレアの「イラクは45分間で攻撃可能」発言問題で、通常兵器の配備時間の情報が、キプロスの英軍施設へのミサイル攻撃へ、そしてタブロイド紙のレベルでは、45分後に化学兵器核兵器がロンドンに飛来してくるイメージへと変化していったのを私たちはすでに目撃している。

もし万が一この計画が日の目を見たときターゲットになる日本内の施設はどこだろうと想像してみるとき、可能性として圧倒的に大きいのは当然ながら沖縄の米軍基地だ。もし日本が攻撃されていたら、日本が国をあげてアメリカと一丸となり、有事立法なども整備していく機会になっただろうという意見を読んだ。政治家はその方向に利用するかもしれない。しかし、直接間接に被害を被る沖縄の人々までが、なぜ基地がここにあるかを不問にしたまま、アメリカと一体になってブッシュ版の「テロへの戦争」を支持することになったかどうか、あるいはアメリカの基地は勘弁、基地は出て行けという声がそこで多数になったとき、他の地域の日本人はそれを「テロに屈した」と呼ぶのだろうかと、不謹慎な仮定ながら、何度も自問してみた。