仏民放TV局のお仕事−−コカコーラの販促

fenestrae2004-07-10


「コカコーラを売るのを助けるのがわが局の仕事」と、仏TV局TF1会長

Le métier de TF1 "c'est d'aider Coca-Cola à vendre son produit" (PDG de TF1)
AFP | 09.07.04 | 20h14


フランスのTV局TF1の会長パトリック・ル・レー氏が、近刊の企業経営者のインタビュー集「変化に立ち向かう経営者 Les dirigeants face au changement」(Editions du Huitième jour)の中で述べるところによれば、TF1の主たる仕事は「コカコーラが商品を売るのを助けること」だという。氏は次のように語る。


「テレビについてはいろいろな論じかたがあるが、ビジネスの観点から言うと...現実をみよう...基本的にはTF1の仕事は、コカコーラが−−たとえばだが−−商品を売るのを助けることだ」
「CMが受けとられるためには視聴者の脳が空いていなければならない。そしてわれわれの番組の使命は脳をそのために空けさせておくことにある。つまり2つのCMの間で脳に気晴らしをさせ、リラックスさせCMのために準備させることだ。われわれがコカコーラに売りつけているのは、人々の脳が彼らのために空いている時間だ。」
「そういうふうに脳を空けさせておくのほど難しいことはない。だからそこに絶え間ない変化が求められる。常に人気番組を変化させなければならない、流行を追いかけ、トレンドに次々と乗り移らなければならない。情報が加速的に増え、あっという間に陳腐になるそういう中で。テレビの仕事に記憶はない。」


明晰というか率直というか。尊敬する。体制の秘密は体制を最も知り尽くした人間のことばによってしばしば最もよく明かににされるというのは本当だ。もっとも「私はその辺のメディア学者よりインテリですよ。知っててやってるだけだからね」というエリート経営者の、自虐感のないまぜになった倒錯した自負というか、偽悪的態度も見える(スケールは小さいがが、売り出したときのベグベデが、これを自己マーケティング戦略にしていた)。


CMの間の準備タイムに人の頭をカラッポにするためにパレスチナ問題やら、失業問題やらのニュース原稿を準備し読んでいるPPDAやC.シャザル、いつ何時銃弾の飛んでくるかもしれないイラクの街角でカメラの前に立つ特派員のコメントが聞いてみたいものだ。放送倫理の建前にやたらこだわるCSAの面々はどんな顔をしたろうか。


民放局だからしょうがないという意見もあるだろうが、フランスのテレビの大きな問題はTF1と「公共放送局」のFrance 2とが実はこの点でやっていることがあまりかけはなれていないことだと思う。同じように視聴率競争にさらされているのだから無理もないが、ふたことめには国家の文化的使命を云々する国にしては、公共放送が視聴率競争で市場圧力を受け、他の国に比べても強く経済リベラリズムにさらされているのは変じゃないかい...と、フランス人に言うと、ふんふんごもっともというおざなりの返事のあとに「まあしょうがないなTVというのは。でもぼくはTVは見ない(Arte以外)から」と答える見事に同じ反応に出会ったことが複数回。TVは見ても見ないふりをするのがインテリの流儀という風がいまだに色濃い。こんなところじゃTV局の会長がTVはアホな視聴者=消費者のためのものとばかりの発言を気兼ねなくおおっぴらにするのも無理はない。


参考資料→フランス人の頭をCMスタンバイにするための今日のプログラム


◆追記(7月23日)続報は http://mahamaha.cocolog-nifty.com/kyoyo/2004/07/tf1coca.html
をも参照。ル・レー氏の発言の別バージョンの訳も与えられている。