TF1。問題はコカコーラじゃなくて。


TF1会長のコカコーラ云々のAFP記事はフランスあちらこちらの新聞、ネットニュースでとり上げられた。しかし、こういう緊急性のないネタ(インタビューのおさめられた本の出版日は6月22日)が急にスポットを浴びるのには裏がある場合が多い。実はTF1関係の本線のビッグニュースは別にある。ちょっとややこしいがあらましは次のとおり(関連ニュースは多数なのでソースへのリンクは→ Google ニュース検索で)。


7月8日のソクプレス(Socpresse)の株主総会で、ダッソー・グループの総帥セルジュ・ダッソー Serge Dassault が会長に選ばれた。ソクプレスはフィガロ紙やレクスプレス誌をはじめ複数の有力地方紙を傘下におさめるメディアグループである。かつてロベール・エルサン Robert Hersantのもとでエルサン帝国と呼ばれていたグループだがエルサンの死後(1996年)いろいろと紆余曲折を経て、現在ではダッソー・グループが82パーセントの株を持っている。ダッソー・グループは、戦闘機ファンにはミラージュその他でおなじみと思うが、フランス有数の軍需産業企業体であり、最近では情報産業に大きく進出している*1ダッソーのソクプレスに対する経営コントロールはこれまで資本によるもので間接的だったが、今度のセルジュ・ダッソーの会長選任で直接的なものとなった。さてこの経営の新展開に伴って、ソクプレスがテレコム網のブイグ社 Bouygues および TF1との資本提携に向けて交渉中という情報が出てきた。ブイグは現在でもTF1の41パーセントの株を持っている。この提携が実現すると、軍需産業ダッソーと結びつきながらソクプレス(フィガロその他)−ブイグ(携帯電話、インターネット)−TF1(フランスで最も視聴率の高いTV局)というメディア支配グループが成立することになる。


周知のとおりフィガロ保守系オピニオンリーダー紙。TF1もどちらかというと保守党が政権にいるときに政府への点が甘い。それにほぼ広告収入のみで成り立っている局の宿命として企業批判などまともにできるわけはない。そうしたメディアが情報通信産業軍需産業支配下で巨大な複合体となることに対して左派系のメディアは当然のようにいっせいに警鐘を鳴らし、左派政党、労働組合も警戒を強める。


TF1のコカコーラ云々というのはこうしたメディア支配グループ形成への動きへの批判の文脈の中でTF1の愚民政策を揶揄する効果をもって配信されたきたのは明らかである。TF1関係の記事の執筆のため調査中の記者が最近刊の本の中で格好のネタを見つけたというところではないのかとも想像してみる。AFPの記事の配信のしかたもよく観察していると、三面記事的なものが全体の大きな政治的流れの中で意図的に選ばれているように感じられることがある。そういう意味ではこのネタに飛びついて、わざわざロゴのコラージュまで作って紹介したこの日記も、まんまとカウンター・プロパガンダにのせられて協力したことになる。


あらためてル・モンドのネット版を見ると、最初AFP版で別々に流れてきた二つの記事(左派メディアよる批判、TF1-コカコーラ)がなんと、合体されたページで紹介されている。やはり象徴的なインパクトのあるネタだったらしい。

Serge Dassault et ses alliés possibles inquiètent la presse de gauche
LEMONDE.FR | 09.07.04 | 20h54

*1:検索中にasahi.comでたまたま見つけたが、週間朝日に有名な評論家の書いている記事の中にある、「シラクの最大の政治的パトロン軍需産業のドン、マルセル・ダッソーであり」云々というのは、2004年の記事としては誤解を招く。セルジュの先代のマルセルは1986年に94歳で没している。メジャーなメディアに名のある人が書くこういうのは何も知らずに字句どおり受け売りするのが出てくるから、時制か人名に正確を期して欲しい。