EU新委員長にバローゾ氏、正式承認
あれ、ずいぶん前に決まったんじゃないの?という感じだが、正式な任命には欧州議会の承認がいる。行われたのが昨日(22日)。asahi.com の記事から抜粋すると
EU新委員長にバローゾ氏 欧州議会が承認
www.asachi.com (07/22 22:25)
欧州議会は22日、仏ストラスブールで本会議を開き、欧州連合(EU)の次期欧州委員長にポルトガルのバローゾ前首相(48)を選出する人事を承認した。
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議会での投票結果は賛成413、反対251、棄権・無効47。6月29日のEU首脳会議で次期委員長に選ばれたバローゾ氏は、ポルトガルの与党で中道右派の社会民主党に属する。最大会派で中道右派のキリスト教民主党系やリベラル系に加え、中道左派の社会民主党系の一部議員からも支持を得た。
「中道右派の社会民主党」という表現と、「中道左派の社会民主党系の」というのが出てきてごちゃごちゃの感じがするが、記者が悪いのではなく、これは国別の政治地図がもたらしたいたずら。欧州議会の中での会派の勢力地図については20日の日記に書いた。
朝日の記事で「最大会派で中道右派のキリスト教民主党系」というのは私のところで「欧州民衆・民主党」と仮に訳した PPE-DE (Group of the European People's Party (Christian Democrats) and European Democrats、Groupe du Parti populaire europeen (Democrates-chretiens) et des Democrates europeens)*1。「中道左派の社会民主党系」というのは私のほうでも「伝統的な社民党系」と解説し、「欧州議会社会主義者グループ」と訳をあてておいた PSE (Groupe socialiste au Parlement europeen 通称 Groupe du Parti socialiste européeen)。リベラル派というのが「リベラル派・民主派連合 ALDE」(Alliance of Liberals and Democrats for Europe)。議長選挙のとき緑と共闘したこの中道保守リベラル派が今度は、通常の布陣に戻って、PPE-DEと歩調を合わせた。「中道左派の社会民主党系の一部議員からも支持を得た」というのはル・モンドの解説によるとこの会派に加わっている各国の党別の支持によるという。左右の両会派が取り引きをするというのは議長選挙で説明したとおり。今度はこの合意が大会派ごとではなく国別にあったらしい。イギリスの労働党とスペイン労働党はパローゾ氏支持。フランス社会党は反対(バローゾ氏の政治姿勢が自由主義経済に傾きすぎとして)といったぐあい。
さて「中道右派の社会民主党」のほうに戻ると、これはポルトガル国内での政治布陣での話。フランスの社会党、ドイツの社民党にあたる左派社民党系の党はポルトガルではフランスと同じく「社会党 Partido Socialista」と称する(得票率38%)。「社会民主党 Partido Social Democrata」と名乗るほうは右陣営に属しその最大会派(40%)で、それより右の「民衆党 Partido Popular」(9 %)と連立を組んで政権党となっており、そのため「中道右派」と位置づけられる由。ああややこしい。
とはいっても、結局のところはいわゆる西側欧州の政党地図は、欧州議会の大会派にみられるように、伝統的な大保守政党(いろいろな潮流から来るものが一つにまとまったもの)、それに拮抗する社会民主義大政党の対立を軸に、中道保守(だいたいリベラリズムを標榜する)、凋落していく共産党、新勢力としてのエコロジスト、あと諸派としての新左翼、極右、地域独立主義者(これは大保守にかぶさっていることもある)が適当に間を埋めている同じ図式のバリエーションでだいたいの国の状況がとらえられるはず。
日本でもいわゆる55年体制の地図を知っている人には、エコロジストのような新勢力はなかったにせよ、簡単にアナロジーでわかり、政党、会派名に「社会 social」が入っているばあいの左右のぶれの大きさについても理解できる。「社民党系」とこのまえから何度か書きながら、この語で日本の今の小会派としての「社民党」しか反射的に想像しない世代の人には、もしかしたらその大まかな含意が理解できないかもしれないと、ちらりと思いながら面倒なのでそのままにしている。
逆からみた場合、つまりヨーロッパ人が今の日本を見た場合のわかりにくさも絶望的なものがある。日本の政治地図をヨーロッパ人に説明しなければならないはめになることがときどきあるが、55年から90年代半ばまでの政党地図は難なく共通の観念の上で、説明できるが、それ以降の状況を理解してもらうのがおそろしく難しい。
バローゾ氏に話を戻せば、ル・モンドでのめぼしい記事は次の2つ。
Union européenne : M. Barroso donne trois gages à la Commission qu'il va diriger
LE MONDE | 22.07.04
EU −− 欧州委員会を率いるにあたっバローゾ氏が与える3つの優先課題
上に説明した今日の投票をめぐる政治力学も解説してある。
Barroso une jeunesse portugaise
LE MONDE | 20.07.04
バローゾ、ポルトガルからきた新世代
実際バローゾは1956年生まれと若い。70年代にはマオイスト(毛沢東主義者)でポルトガルの新左翼の最もラディカルな派に属した。中道右派に転じ政治キャリアを積んでいく彼の履歴。
Inter Press Service の配信するポルトガルの記者による記事では、ブレアやアズナールとともにイラク開戦支持に回ったことも含めて、今日までに至る彼の軌跡を long march (larga marcha)と表現する。
EUROPEAN UNION: From Mao to Bush - The Long March of Portugal's PM
Inter Press Service 29 june 2004
EU : マオからブッシュへ。ポルトガル首相の長征ポルトガル語版 : UNION EUROPEA: De Mao a Bush, la larga marcha de Durão Barroso