欧州憲法条約批准国民投票 J3 夜

■ 20時からシラク大統領の演説。

TF1、France 2、France 3の3チャンネルで同時に流す。3チャンネル同時放送は最近減ってきているように思ったが。短いが、前2回のテレビ出演よりもかなりつっこんだ率直な態度表明。捨て身の姿勢というべきか。この投票は「政府にウィ、ノンを言うこととは違う」と言っていたが、これは社会党ウィ派が早くから、使っていた「政府に対する批判のつもりでノンを入れるな」につながるレトリック。そしてシラク大統領自身が、間接的に、現在の政府への不満が世論にあることを認めたことになる。EU憲法の成立でどんな利点があるか列挙し、ウィを何度も繰り返す。下手をするとバナナの叩き売りのような、それも特にシラクの口から言われる、こうした文句がどのくらいアピールするか。ノンの場合に大変なことになるという脅しはあまり言わないはずだという観測があったが、それでも言ったほうのように思える。そしてもう一度、政権批判の世論に答えるように、

この論争の間、ヨーロッパだけが問われたのでないことは知っています。そこには皆さんの不安や期待が表明されていました。そのことは十分に理解しています。私はこれからのアクションに新しい推進力を与えることでそれに答えることにします。
Durant ce débat, il n'a pas seulement été question de l'Europe, je le sais. Des inquiétudes et des attentes se sont exprimées. J'en ai pleinement conscience. J'y répondrai en donnant une nouvelle impulsion à notre action

この「新しい推進力」が、新首相任命(ド・ヴィルパン、サルコジその他の名があがっている)と示唆したものと解釈されている。投票結果のウィ、ノンによってというような条件は明示していない。とにかく内閣は変えて政府の方針を新しくすると約束するから、内閣への不満を憲法へのノーにぶつけるのはやめてちょうだいと言っていることになるが、世論の側からすればノーが通ればもっと強い圧力になるわけだから、このお願いがどのくらい聞かれるかどうか。「私は十分に理解している J'en ai pleinement consicnece」は、2002年の選挙のすぐあとにやった Je vous ai entendus と同じく、ド・ゴールの "Je vous ai compris."に範をとったシラクの好きなレトリック。こうしたことばの信用度は、使用頻度と行動との相関で決まるが、さて。

■公営TVチャンネル裏表

21−22時台の2つの公営TVチャンネルにフランス人の大好きな番組2つ。France 2は、批准賛成派4人、反対派4人の政治家を招いた討論会。France 3はシャロン・ストーン主演の「氷の微笑(Basic Instinct)」(後者に前者の対抗馬となるほどの重みを与えられている事実についての予言的観察は21日の記事を参照のこと)。

賛成派−ミシェル・バルニエ(外務大臣、UMP)、フランソワ・ベイルー(UDF)、ドミニク・ストロス=カーン(社会党)、ダニエル・コーンベンディット(緑)。
反対派−マリー=ジョルジュ・ビュフェ(共産党)、オリヴィエ・ブザンスノ(革命的共産主義者同盟)、フィリップ・ド・ヴィリエ(MPF)、マリーヌ・ルペン(FN)。

ドミニク・ストロス=カーンがかなり長く話す場面が途中にあり、妥協の産物としての憲法案を受け入れるべき理由について、かなり率直な説得力を持つ議論があった。私の印象ではこの番組の中の一番のハイライト。ストロス=カーンはブザンスノにかなり友好的な態度で、その立場を上手に引き合いに出しながら、それをウィの側に引き込むレトリックを何度も使用していた。ブザンスノの背後にいる左派のノンを刺激しないように上手に説得することを意識している。コーンベンディットは、個々の条文についてのビュフェ、ド・ヴィリエのミスリーディングな解釈にいらつく。また討論最後のテーマがフランス内政へのインパクトになることにまたいらつく。このいらつきはよく分かる。彼の最後のまとめの発言は、ウィへ鼓舞するアジ的なものでなく、あきらめを含んだような感傷的な感じだったが、何か戦略的に演じているのかよく分からない。

時々ザッピングしてシャロン・ストーンを見る。両者の視聴率に興味があるところ。

■新聞記事クリッピング

まずは昨日の分から

  • そう思っていながら昨日、 Le Monde Diplomatique の記事に目をとおしたすぐ後に、ル・モンドで昨夜の段階でもっとも読まれている記事になっていた、論壇投稿記事 「EUの終局へのプログラム La fin programmée de l'Union européenne, par Jacques Nikonoff」 (LE MONDE | 23.05.05)をたまたま読みはじめたところ、途中から、上の「迷走」記事の前提を恐ろしく粗雑にしたあげくに、アングロサクソン自由主義という概念だけを元に、フランス中心的な政治的イデオロギー地政学だけで欧州の組み立てを解釈し、それをもとでに、憲法批准ノンを宣伝する記事というのが分かる。完全に頭にきながら我慢して最後まで読み、著者の肩書き économiste, président d'Attac-France.というのに行き当たる。左派のノンの中でもル・モンド級の新聞に掲載されたものとしてはかつて読んだなかで論理が最も粗雑で、現実から遊離したもの。今日のテレビのブザンスノのほうが何倍もまとまだった。内容を紹介しないでの批判はちょっとフェアではないが、時間があったら、他の記事でまた扱う。ル・モンドで最も読まれた記事というのでどうしたものかと思ったが、記事に対する一般読者からのコメント欄(最近のル・モンドは日ましにブログ化していく)を見ると、ほとんどが手厳しい批判。当然だ。Attac-Franceには何のうらみもなく、その活動には敬意を払える部分もあると思うが、この知的欺瞞に満ちた記事、そして上のル・モンド・ディプロマティックで展開されているキャンペーンはまったくいただけない。
  • 今日アップされた記事で印象に残ったのは、ルモンドの社長で主筆のジャン=マリー・コロンバニの社説「ノンの幻想 Illusion du non, par Jean-Marie Colombani」(LE MONDE | 26.05.05)。ノンの態度の根底にある幻想、そしてノンのもたらす現実的結果を詳しく分析し、ウィの必要性を訴える。

上の二つは今詳しく紹介する余裕がないのが残念だ。