国別好感度−−アメリカと中国。そして日本。

先週末、次のような「米国の好感度」についての報道がなされた。

米国の好感度:世界16カ国中10カ国で50%を割る
毎日新聞 2005年6月25日 13時23分
 米世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」は23日、世界16カ国で今年実施した米国のイメージに関する調査結果を発表、米国に好感を抱いている人は10カ国で50%を割り、イラク戦争などで悪化したイメージが改善されていないことが分かった。日本は調査対象国に含まれていない。
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(ワシントン共同)

asahi.comも同じテーマの記事を載せていて、こちらはやや長い分析がついている。

ヨーロッパ諸国を含む11か国でアメリカが好感度で中国に抜かれるというのを強調したのは日経で、

この調査報告がフランスの報道でとりあげられた際も、このあたりが強調された。

ところでこの調査のオリジナルの報告書は以下のところにある

Pew Global Attitudes Project
U.S. Image Up Slightly, But Still Negativ

American Character Gets Mixed Reviews

Released: 06.23.05

html版の紹介ではいくつかのページに別れているが、全文はPDFになっている

この報告書で、国別好感度調査についての16か国での調査が以下ようなグラフにまとめられている。


横並びの欄が「好感度」*2の評価対象になっている国、左の縦の欄が質問の行われた国。新聞記事の紹介に「日本は調査対象国に含まれていない」となっていて、これは調査の行われた国という意味では正しいが、実はこの表から分かるように、5つの評価対象国(米・独・仏・日・中)の一つにあげられており、この調査は日本にも関係ないとはいえない。

さてこの表から、日本の16か国における好感度について何がわかるだろうか。

  • 米・独・仏・日・中の5か国から日本の好感度を
    • 1位とするのは3か国(トルコ、インドネシア、インド。インドネシアでは回答者の85%が「好ましい」と答える)
    • 2位にするのが5か国(アメリ*3、フランス、ドイツ、パキスタン、ヨルダン)
    • 3位にするのが6か国(カナダ、イギリス、スペイン、オランダ、ロシア、レバノン
    • 4位にするのが1か国(ポーランド
    • 5位にするのが1か国(中国。回答者の17%のみが好ましいと答える)
  • 日本の好感度がアメリカより下の国は、ポーランド(60%vs62%)、中国(17%vs42%)の2か国
  • 日本の好感度が中国より下の国は、調査実施国でもある中国を別にすればパキスタンの1か国(49%vs79%と圧倒的な差)
  • 日本と中国に対する好感度が極めて、そして最も接近している国はイギリスで69%vs65%とわずか4ポイント差。
  • 日本に好感をもつと答える人の割合で親日国の順番を計ると、
    • インドネシア(85%)、フランス(76%)、カナダ(75%)、ロシア(75%)……4人に3人超レベル
    • レバノン(72%)、イギリス(69%)、オランダ(69%)……3人に2人超レベル
    • スペイン(66%)、インド(66%)、ドイツ(64%)、アメリカ(63%)、ポーランド(60%)、トルコ(55%)……2人に1人超レベル
    • パキスタン(49%)、ヨルダン(46%)、中国(17%)……2人に1人以下レベル

こんなところだろうか。中国を例外として、調査対象となっている欧米、アジア、中近東諸国において、日本の好感度は、中国、アメリカより上で、フランス、ドイツとだいたい同じ水準というのが、平凡だが要点となるだろう。中近東諸国のデータが少ないので早まった結論は禁物だが、「イラク派兵」によって、日本がアメリカと同じ評価を受けていることはないように見える。

細かい点を見ようとすると、国によって外国への好感度そのものの水準が全体的に大きく違うので、いろいろな解釈が可能である。たとえば親日国とよくいわれるトルコにおいて日本が好感度一位であるにもかかわず、好感を持つと答える人がほぼ2人に1人という低水準の55%である。

それぞれの人の先入観のありようによって、意外に感じたり、納得したりするだろう。東欧の中では親日国だとよく聞かされていたポーランドでのスコアが低いのは、私としては考えさせる事実であった。フランス、ドイツにおいて隣国のドイツ、フランスが−−両国関係の蜜月を証明するように−−お互いまず一位で、その次に、また自国をさしおいて、あるいは自国とならんで日本がくるというのは面白い。

被評価国のうち日本を除く4か国は調査実施国でもあるので、自国に対する好感度の水準がわかる。自国を圧倒的に多くの人が好ましいとするのがアメリカ(83%)と中国(88%)の2か国。自国への好感度が他国への好感度より下なのがフランスとドイツ。フランスでは74%で、ドイツ、日本に対するものより下。ドイツでは64%で、フランスに対するものより下で、その次の日本に対するものと並ぶ。フランス人はよく自国中心的・自己愛的ナショナリストと言われるが、この数字はそれを裏付けていず、「自虐的」といわれるドイツ人と同じ傾向を示している。自己懐疑的なヨーロッパ型とストレートな自己肯定的なアメリカ−中国型があるとするとき、日本の結果がどちらに入ったか興味深い。他の点でもいろいろとこの調査が日本で行われなかったのは残念だ。

64ページあるこの報告書は、副産物としての上のような日本に関するものだけでなくて、他にもいろいろな情報を含んでいて興味が尽きない。調査の第一目的であるアメリカのイメージに関するものもさることながら、中国人の考え、中国に対する各国のイメージに関する情報は多くの人の興味をひくのではないだろうか。この報告書には各国ごとのサマリーもあり、中国についても2ページほどにまとめられている

気になるデータの一つとして、対米パワーとしての中国の役割についての各国からの評価をあげておく。

Views of China と題されたグラフ(右)ををみると、「中国の経済発展が自国にとってよい影響を与えるか」という質問には、総体的にだいたいの国が50%ラインの前後にいるが、「その軍事力が米と競争することはよいことか」という質問に対して、米・欧諸国が概ね否定的(もっとも好意的なフランスで27%、ドイツでは11%がイエス)であるのに対し、アジア・中近東諸国では約半分から7割以上の人がイエスと答えている。日本人が頭にいれておくべき国際世論の与件だろう。


最後に、この報告書についての報道の問題に戻る。この報告書には、いつか紹介しようと思っていたリベラシオンの中国レポートブログ Mon Journal de Chine par Pierre HaskiInternational Herald Tribune によるまとめ The U.S. image abroad: Even China's is better (FRIDAY, JUNE 24, 2005) を経由してたまたまたどり着き、これが日本での国内報道でどのように紹介されているか確認しようと検索し上の3つの新聞記事(この3つのほかには、TBSのTVニュースの抜粋 )を得たわけだが、これらの新聞記事にはこの報告書に日本についての情報が含まれているという紹介はない。もっぱらアメリカの対外イメージについて、そしてついでに、それとの比較での中国の対外イメージが扱われるだけである。考えてみればおかしな話で、日本の報道機関なら、というより日本人なら、自国がどのように見られているかの調査項目が気になるのは普通である。日本に関するデータはあまりに常識的すぎてニュースバリューがないと考えたのだろうか。むしろ、上に挙げたような記事は、元の報告書を見ることなく、アメリカの報道を縮小して書かれたものであり、そうしたことに気づくべくもないし、またそうした観点で報道するという態度もなかったのではないかと推測したくなる*4。そうであるなら−−もし元の報告書を見たのならなおのこと−−結局、このブログで以前から何度も繰り返していることだが、日本の報道機関が、そこにある事実や世界を、日本人としての主体的な眼で解釈することなく、アメリカの眼を通して見る習慣がこんなところにも表れているとしかいいようがない(あまりしつこく強調するとちょと江藤淳っぽくなってくるが)。

さらに検索してみると、この報告書についての報道に際し、報告書のオリジナルについて触れ日本のことにわずかに言及したものが見られるのは、2chだったことがわかる(Googleキャッシュに残るスレッドの一つ)。そこでは当然ながら場所の性質上、断片的なつまみぐい的扱いしか受けていない。しかし、本来ならばちゃんとした報道機関が多少なりとも自前の主体的な視点で分析した記事を書くに値するデータであるはずで、報道機関のそうした努力がない限り、人々が+αの情報を求めたり交換しに巨大掲示板に向かうのもある意味で自然な成り行きといえる。

*1:この日経の速報のアーカイブ、記事のタイムスタンプに時刻のみあって日付がなく、日付けをどこからも探すことができないというのはどうしたものか

*2:正確な質問の文は "Please tell me if you have a very favorable, somewhat favorable, somewhat unfavorable, or very unfavorable opinion of ...

*3:ただしアメリカは被評価国にも含まれているのでアメリカにおける日本の好感度は外国としては1位

*4:追記 asahi.comの記事の要約は、オリジナル種々のデータを渉猟しており、原レポートにあたったもののようにも読める。とするとこの批判はあたらない。が、後述のように、逆にいっそう、日本の評価についての記述が一切触れられていないことが奇妙だ。