騒動に参加した「移民」

26日に、「『暴動参加者の80%が前歴あり』(内務大臣)は裁判所データに一致しない」という旨の25日づけル・モンド記事を紹介したが、よく調べると実はすでに18日のNouvelObsの記事「 Décryptage du profil des émeutiers 暴動参加者のプロフィールを解読する」あたりからちらほら出ている。このNouvelObsの記事によると、地域によって参加者のプロフィールも少しづつ違うという。そしてニースで逮捕された顔ぶれを見ると「見習い職の者、高校生、大学生、労働者、そして医者の息子も」と。

そして18日づけのリベラシオンは暴動に参加した「移民」について、多くの人の先入観をくつがえす次のような北フランス・ノール県*1の状況を伝えている。。

ノール県の裁判所、暴動参加者の顔ぶれはステレオタイプとはほど多く。
Dans le Nord, au tribunal, des émeutiers loin des clichés

par Haydée SABERAN
Libération : vendredi 18 novembre 2005

貧困地域の白人の若者たちが裁判に出頭。
Des jeunes Blancs issus de milieux défavorisés comparaissent devant la justice.

騒動に参加しているのは、いわゆる有色人種だけではなく、白人そして「先祖代々のフランス人」も含まれているのは事例として知られていてこれは何も驚くべきことではないが、例外的な個別例としてでなく、この記事は、ある状況下の構造的な現象として示している。以下ざっとした訳。

彼は「移民層の出身」ではある。しかし、普通に人が思うようなのとは違う。ジェレミー・Vはアラスに住んでいる。名前はフラマン系。つまりその先祖はベルギーから来たということだ。アラスで臨時雇用者として働く二十歳のこの若者の逮捕は、車に火をつける貧困地域の若者たちが紋切り型のイメージにはあてはまらないことを示してくれる。

リルでは、こうした予想外の被告たちが、この何日も裁判所を賑わせた。「即刻裁判を受けた若者たちの3分の2はジャン・マルクやマクシムといった名前*2の者たちだ」と、大審院に詳しいあるジャーナリストは述べる。「肌の色の濃いものだけではない」と、リルで地域の特殊教育施設の教師を務めるセルジュ・ダミエンス氏は確認し次のように述べる。「ボワ・ブラン地区で学校が燃やされたとき、最初の半時間の間にいたのは、すべて白人だった」。驚くべきことではない。「肌の色は就職の際に不利な条件なのはたしかだ。が、住所もそうだ。なんとかうまくやりたいと思う者は、カルチエ以外あるいは隣り町に住む叔母さんのといった偽の住所を使うことも多い。」
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古くからの移民の地であるノールとパ・ド・カレでは、民衆階級の住むカルチエのほとんどが民族的にはまじりあっている。貧困地域に住む労働者階級の、あるいは日に日に増える失業者たちの息子はいわゆる「先祖代々からの」フランス人であったり、ベルギー、ポーランドポルトガル、スペイン、マグレブ諸国、アフリカからの移民層の出身である。この2週間らい軽罪裁判所に出頭するこれら「白人」について、社会学者のマリーズ・エステルレ=エディベル氏も驚くべきことではないとする。「もしそうでなかったほうが驚いたろう」と彼女は言う。かつてパリ近郊で教育カウンセラーを務めた氏は、現在では4年来ルベー市の各カルチエで活動している。「前にヴァル・ドワーズやヴァル・ド・マルヌで見たのとは違って、ここに、『移民も非移民も』ない特徴ある人口構成があるのに気がついた。」ここでは「白人の」極めて貧しい家族がいる。「満足に食べていない、あるいは、電力会社に電気をとめられ暖房なしで暮らす子供たち。16歳で母親になっている少女たち。ここは第四世界だ。」

彼女の見方では、今回の都市暴動は民族問題の見地からは分析できない。「一夫多妻制がどうこういう説明はまったくのプロパガンダだ。というより、確実なのは、地域全体が経済活動の世代交代の停止によって荒廃していることだ。労働者間の連帯は消え、公的アシスタンスにとって代わられた。ルベー市のアルマ地区では失業率は40%だ。妊娠証明書を提出して15歳で学校を辞めていく少女たちの母親は30年前はラ・ルドゥト*3の労働者であったりした。それでも今のように最低生活補助金を受けて暮らすのとは違う。」
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13日のエントリーで、この騒動のおおもとについて、「事柄の本質は移民問題・同化問題ではなく、宗教の問題でもさらさらなく、まず都市問題であり、経済・社会問題であり、前者(←移民・同化問題)は従というのが私の考え。」と書いたとき、やはりこういう図式を想像していた。

上の記事では騒動に参加した「移民」の一般的イメージを覆す「ヨーロッパ系の移民」という観点が強調されているが、祖父母がベルギー人やポルトガル人のフランス人を「移民層の出身」と自他ともに明確に意識する−−特殊な政治的意識の発露する場以外に−−人はいない*4だろうし、そうした人の中にも、こうした地区、社会階層から抜け出せない人々がいることを考えると、結局、こうした状況はこれが一義的には「移民問題」ですらないことを示している。

パリ近郊ではやはり騒動参加者はマグレブ系やアフリカ系の移民層(第二、第三世代も含め)がほとんどなのはたぶんまちがいなと思うが、これは結局、騒動の火種となった見捨てられたカルチエの住民の大部分を占めるのが、ノール県とは違って、パリ近郊ではこれらの移民層であるということを意味しているに他ならない。

*1:リルを県都する北フランスの県。北東にはベルギー、北西にはカレー海峡。西隣りのパ・ド・カレ(県都はアラス)とともに地域圏 ノール=パ・ド・カレを作る

*2:すなわちヨーロッパ系

*3:La Redoute フランス最大のカタログ通信販売会社」

*4:そもそも俗に、フランス人の四人に一人が、祖父母までさかのぼれば必ず一人は元外国人という。