ヤシン教授とテシエ博士

fenestrae2004-07-31

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郵便受けに入っていたチラシ。この手のものはよく入っている。このチラシで感心したのは、三日月と星、ダビデの星、聖書のマークで、イスラム教、ユダヤ教キリスト教に対応しているのをうたっていること。さすがに国際的大占い師・霊媒の教授、コミュノタリズムを克服しようという共和国の理念に適応している。

個人的にお世話になったことはないが、フランスでも占い師、呪術師業はなかなか繁盛しているようだ。ジプシーの占い師、俗にマラブーmaraboutと呼ばれる北アフリカ系の呪術師(ヤシン教授もたぶんそうだと思う)、擬似科学理論武装した各種の占い師などがそれぞれ顧客を持つ。安手のテレビ雑誌の広告欄などには、有料電話の番号、有料ミニテル(テレテキスト・サービス)のコードがいろいろな宣伝文句とともに並んでいる。

占星術家でメディアの有名人になった者もいる。最も有名なのはマダム・ソレイユ Madame Soleil だろう。1996年に亡くなったが、"Je suis Madame Soleil"という宣伝文句のミニテルのサービスはその後もしばらく続いた。そのサービスも消えた(たぶん)が、彼女は「私はマダム・ソレイユではないから "Je ne suis pas Madame Soleil"」という決まり文句をフランス語の表現に残した。「私は予言者じゃない(から先のことは分からない)」という意味。さすがに古臭くなってきたが、いまだに使われる。1971年にポンピドー大統領が最初に用いたフレーズだとという。

マダム・ソレイユの死後、今最も有名な占星術家はエリザベート(イザベル)・テシエ Elizabeth Teissier *1だろう。元モデルで故ミッテラン大統領をはじめ大物政治家との親交でも有名になった。2001年に彼女はパリ第5大学で 「La situation épistémologique de l'astrologie à travers l'ambivalence fascination-rejet dans les sociétés postmodernes ポストモダン社会における魅了−拒絶の両面感情を通してみた占星術の認識論的状況」と題する900ページほどの博士論文を通した。これが知られると、この論文は占星術を擁護する内容のもので社会学的視点が見られないと、あちらこちらの社会学者から博士号授与に対する異議が表明され、メディア−学界をまたがるちょっとしたスキャンダルになった。社会学的研究という衣の下に、自らが強い帰属感を持つ職業・政治・文化集団の価値観を実は訴えているだけという論文は少なくないが、こうしたものが今まで見逃されてきて、この件で急にスキャンダルになったのは、一種の有名税もあるだろう。

チラシを家の郵便箱に配る街角の国際的霊媒教授から大手メディアでがっぽり稼ぐ「美人」社会学博士−占星術家までいろいろ社会的ランクがあってこの商売も楽ではないようだ。

それに最近の世論調査によると、占星術を信じる者の割合は実はフランスでは減少してきている。CSAとLa Vie誌、ル・モンド紙が2003年3月に実施した調査「Les Français et les leurs croyances フランス人とその信仰 → PDFファイル」(標本数1000人)によると、「占星術による性格の説明を信じますか」という質問にウィと答えたものが37%(大いにが8%、ややが29%)、ノンと答えたものが63パーセント。1994年の調査ではこの比率が逆転していてウィが60%、ノンが37%(無回答3%)だった。もっともまじめな世論調査ではもっともらしい事を答えて、ちゃっかり毎日あるいは毎週、新聞、雑誌の占星術欄には目を通し、時にはその気になったりする人も多いだろうから、この手の数字は−−世論調査に対する人々の態度の変化を知る手がかりにはなるが−−あまりあてにはならない。

上のすばらしいチラシに心惹かれてヤシン教授に見てもらいたいと思う方は、fenestraeあてにメールを下されば、格安はてなポイントで連絡先をお教えします(ただし通訳、翻訳はかんべん)。効き目も待遇も保証しません。それとも、テシィエさんにメールを書いて、ご学説の日本紹介代理人になりますがどうですか、ともちかけてみようか。当方、「ポスト・モダン」とか「認識論的」とかいうタームの入った論文は慣れっこで、日本人が好きなようなツボを押えた難解かつ魅惑的なスタイルで、翻訳・解説することもできますとか言って。でも、翻訳料の代わりに毎週ただで特別に占ってあげますと言われても困るからやめといたほうがいいかもね。

*1:この人の名前は Isabelle, Elisabeth, Elizabeth、姓にTessier,Teissier などがあり異綴りが多い。本人が時々変えてもいるようだ