ル・モンド、ネット読者の選ぶ記事ベスト10(8月11日)

何度か言及したがル・モンドのネット版のフロントページの下のほうには、ネット読者の選ぶ記事ベスト10というのがある。この数日の記事が対象になっている。ベスト10と言っても時間でどんどん動いていくので、順位はあまり意味がないが、だいたいどんな記事が読者の興味をひくかがわかる。最近ル・モンドの記事を紹介していなかったので、現時点(11日水曜日15時30分)でのベスト10を選択なしで頭から紹介。

1 - アラバマ州は病床の老人の死刑を執行Exécution d'un vieil homme, grabataire, en Alabama

全身を癌におかされる74歳のアラバマの死刑囚、27年の裁判の後、恩赦もなく8月6日に死刑執行。アメリカの死刑囚についての話はル・モンドではよく人気記事となる。1981年に死刑を廃止した後、20年ちょっとのうちにフランス人にとって死刑の存続は「文明国」と「非文明国」の判定基準の一つになっている。8月10づけのル・モンドの一面はイラクの死刑復活のニュースだった。

2 - アテネ、オリンピック観客への十戒 A Athènes, les dix commandements du spectateur olympique

セキュリティ関係の話かと思ったら、さにあらず。10は全部紹介していないが、以下のようなもの。ボトルや水筒での自前の飲み水の会場持ち込み禁止(会場では、コカコーラが所有する地元のミネラルウォーター Avraを販売。コカコーラ社製品以外の飲み物は会場内では飲めない)。アルコール飲料持ち込み禁止(会場内でハイネケンが買える)。サンドイッチなどの食べ物持ち込み禁止(中でマクドナルド製品が買える)。スポンサーとなっているメーカー以外のTシャツ、帽子、バッグ類での入場禁止。「アテネ2004」のロゴ製品の偽物持ち込み禁止。現金引き出し機は Visa カードのみ受け付け。競技参加国以外の国旗での入場禁止、等々。ジョーク・ネタかとも疑うが、どうもそうでもないらしい。記者は、大会の警備員がこれを全部厳密に適用するのだろうか、ちっちゃなPepsi-ColaのロゴのあるTシャツを着た子供の入場を差し止めるのだろうか、と揶揄する。ほんとうかどうか現地にいる人の報告を待ちたい。

3 - ナディア・ベスギルの政治学院への象徴的な入学 L'emblématique entrée à Sciences-Po de Nadia Besseghir

これはフランスの事情に詳しくない人には背景解説の必要なニュース。話ことばで Sciences-Po と呼ばれる、国立の政治学院 Institut d'Etudes Politiques 特にパリのそれは、将来のエリートを養成する高等教育機関で、高校の教育を特に優秀な成績で終えたものが、場合によっては一定機関の準備期間を経て、受験に臨む厳しい選抜試験で知られる。試験の難しさから、勢い、エリート層の師弟ばかりが合格するようになる。この現象が政治支配層の社会流動性の点から望ましくないとして、3年前から、社会的に恵まれない層の師弟の多い高校から推薦入学で優先的に学生をとる枠組みをもうけた。ブルデューも生前この措置の発足を求めて積極的に発言していた。いわゆるアファーマティヴ・アクションに消極的なフランスとしては例外的なケースである。前置きが長くなったが、ニュースは、この措置で今年から入る女子学生の一人が実は、去年、ロワッシー空港の爆弾騒ぎでぬれぎぬで逮捕、拘留されていた荷物係の青年の妹にあたるという話。兄弟の家庭はアルジェリア系。ナディアさんは卒業したら、国立行政院ではなく、法学院に進み、判事になりたいとのこと。

4 - ムーア、カナダで刑務所行きのおそれ? Moore passible de prison au Canada ?

マイケル・ムーアが6月のカナダの連邦総選挙中トロントに立ち寄った際、保守系候補に投票しないように示唆する発言をしたことで、これが外国人の選挙運動を禁止した法律に触れるということで、あるグループに訴えられた。訴えが通るとムーアは下手すると懲役刑。この訴えをめぐりカナダでは反ムーア派とムーア支持派の間で運動が繰り広げられている。ボウリング・フォー・コロンバインであれほどカナダを誉めたのに皮肉な、と。このニュースについては多分英語圏のサイトのほうが詳しいと思う。

◆追記 : この件についてはカナダ在住の id:Soreda さんがとりあげている http://d.hatena.ne.jp/Soreda/20040812#1092300181

5 - 原油相場が値上りの中の、専門家は埋蔵資源の枯渇を懸念 Alors que la hausse des cours du pétrole continue, les experts s'inquiètent de l'extinction des réserves

ASPO (Association for the Study of Peak Oil)という科学者と石油問題専門家の非公式ネットワークによれば、化石燃料の産出高は今まで考えられていたよりずっと早くピークを迎え、石油は2008から2010年、ガスは2013年がその時期。このネットワークの専門家たちは、「世界中に祭は終ったことを知らせたい」とし、「祭のクライマックスの後には、より慎ましくなり、祭の終りに直面しなければならない下降の時期がやってくる」と述べる。美浜の事件が起ったときのネット版のトップ記事がちょうどこれで、核エネルギーについての話も出ているのかと気になったが、結論は省エネをもっと進めましょうということだった。でなければちょっと皮肉が過ぎる記事になっていた。

ふう。あとの5つはまた元気が出たら紹介します(しないかも)

6 - ジョルジュ・フレッシュ、右派を挑発、左派を困らせる Georges Frêche provoque la droite et embarrasse la gauche

フレッシュ氏はラングドック・ルシヨン地域圏(州)議会の議長(Président du Conseil Régional)。議長というのはちょっと誤解を招く表現で、通常は、議員選挙の際に会派の被選挙人名簿の筆頭になる候補者。その会派が与党になれば地域圏の長となり、予算権を握る。ラングドック・ルシヨンは地中海に面した西部で、ペルピニヨンとかモンペリエのあるあたり。今年の3月の統一地域圏議会選挙で社会党が圧勝し、フランス本土では1個所をのぞき左派が与党となった。ラングドック・ルシヨンではこのとき長に選ばれたフレッシュ氏が、過去の右派の政策を全否定し、受け継いだいろいろなプロジェクトを単に右派がはじめたというだけの理由でつぶしているとかで、右派は怒る、身内の左派も困っているというニュース。地域圏の名前に、6世紀から10世紀ころに用いられていた セプティマニ Septimanie という地名を加えることを主張。ラングドック・ルシヨンは今は、ラングドック・ルシヨン・セプテイマニという名になっているそう。首長が代わると、やることは結局同じなのに、前任者の政策の引継ぎを嫌って、前の計画を全部白紙にして作りなおすので、延々といつまでも実現しないプロジェクトというのをフランスではまま目にする。


7 - オリヴィエ・ブザンスノ、党に干渉されずに静かに生きる権利を主張 Olivier Besancenot revendique le droit à "vivre tranquillement sa vie" sans être jugé par son parti

オリヴィエ・ブサンスノ氏は、「革命的共産主義者同盟 Ligue communiste révolutionnaire (LCR)」という政治組織の代表者。1974年生まれだから今年30歳。新左翼の新世代ホープとして、メディアでも人気がある。2002年の大統領選挙に立候補(大統領選挙に立候補するには自治体の首長や国会議員からの推薦を500人分集めなければならないので弱小候補でも、立候補できたというだけで、日本の単なるトンデモ泡沫候補とはやや重みが違う)。社会党の経済リベラリズム妥協性策に批判的な左派の若者を中心に票を集め、121万票、4.2%を得票している(このとき共産党候補のの得票が、96万票、3.3%)。記事は Contretemps という雑誌の最近号に掲載された彼のインタビューの一部の紹介。インタビューの中でブザンスノは、左翼団体における政治活動のありかたについて、60-70年代に活動した上の世代と、自分の世代の違いについて語る。運動の中で、自分の上の世代のように個人的生活を犠牲にすることはできない。個人性の開花が社会的解放の目的であり、これをないがしろにしてはこれからの運動はありえないと言う。このインタビューではじめて知ったが、ブザンスノの本職は郵便配達員。「仕事のときのほうが党員の間にいるときよりも人に暖かく迎えられる」と辛辣なことも言う。68年世代の「旧新左翼」の先輩とのメンタリティの違いによほど苦労したらしい。


8 - 米のアーティストら、自由圧殺の法律に反対運動 Des artistes américains en campagne contre les lois "liberticides"

これはリード文をそのまま訳す。「2001年9月11日後成立したテロ対策の愛国者法に対し、サルマン・ラシュディの呼びかけで、多くの作家が強い批判を表明。ブルース・スプリングスティーンに率いられたミュージシャンたちは、ブッシュの対立候補ジョン・ケリーを支援するツアーへ乗り出す。」これも米メディアでさんざん報道されているので詳しい紹介はここでは割愛。この記事では、愛国者法への批判と、ケリーへの支援がごちゃごちゃになっているきらいがあるのが少し気になる。参加する層はだいたい同じといえ、原則的には違うもののはずで、ル・モンドの記事としては少々ずさん。個人的には、関連ニュースの「ニューヨークの地下鉄の中で写真をとると刑務所行きになる可能性も Photographier dans le métro de New York pourrait vous conduire en prison」という、メトロでの写真禁止法についての記事のほうに驚いた。


9 - 中国は西域イスラム教徒の弾圧を強化 La Chine intensifie la répression dans l'Ouest musulman

これもリード文を訳すと「北京の中国政府は「テロリズム」対策の名目で、分離主義者、宗教活動家に対する厳しい弾圧を行っている。政府は新疆の隣接地域に対し、亡命ウイグル人の追放を実行させた。沈黙を強いられたウイグル人たちの疎外の感情が高まっている。」新疆のイーニン(伊寧)発の記事で、実際に現地の声を伝えるルポルタージュ。2001年9月11日のテロ以来、テロ対策が国際社会に対しウイグル人への弾圧の口実に使われており、アムネスティ・インターナショナルから告発されている。亡命者たちはパキスタンやネパール、カザフスタンキルギスタンウズベキスタンから追放され、中国内に戻り重罪に処さられたり、処刑されているという。次の情報は初耳だった。「こうした状況の中、アムネスティ・インターナショナルアメリカに対し、グアンタナモに拘留されている22人のウイグル人を中国側に引渡さないよう要求。」サッカーの試合で騒ぐ連中にいちいち憤激するよりも、こうしたニュースにもう少し敏感になり、声をあげるべきではないかと思った。


10 - 米ジャーナリスト、イラク警察を拷問で告発 Un journal américain accuse la police irakienne de tortures

「西海岸の新聞、The Oregoinan紙はバグダッド内務省で行われている拷問を伝えるルポルタージュを掲載した。アメリカ軍の兵士は囚人たちの救助を試みたが、上官の命令により彼らをイラクの警察に引渡さなければならなかった。」これは9日付けのネット版の一面で、死刑の復活のニュースといっしょに大きく報道され、拷問を受けた人の写真も掲載されていた。これも英語圏のニュースのほうが詳しいと思う。


ふうう。
「。」打って惜しげに飲み干すおおどヰい。