美浜の事故と独仏メディアについてまとめたかったが...

美浜の原発事故の独仏の報道について、脱原発を政策としているドイツと、原子力依存を基本的エネルギー政策としているフランスとの反応の違いを見ながらまとめたいと思って週末からつらつらニュースを見ているが、どうもうまくまとまらない。ドイツのメディアは今のところ日本の安全対策の不備についての暴露を追うことに一番大きな関心があるようだ。フランスに関していうと、読みたいと思っている、国内の状況とリンクさせて分析したり論をはる記事が、脱原発運動団体のコミュニケを除き、今のところ皆無。

ということで、まとまらないまま、フランスの事情についての若干のメモを以下に。

フランスでは、一部のエコロジストを除き、できれば原発は止めたいと心情的に思うが、現実論として今のところ原発がエネルギー問題の最適な解決法という態度をとる人が大部分だ(下記の世論調査を参照)。美浜の事故の問題を仏国内の問題にリンクさせるのは、ヴァカンス中に、自分たちが自己矛盾の中で態度を先送りしている問題について考えなければならないはめになるので、フランス人にとってはできれば避けたいところ。というのは誇張にせよ、美浜の事件を、外国で起きた怖いスキャンダルのレベルから一歩深めた分析を行うというのが、ル・モンドにすら欠けているのは残念で、いつものこの新聞らしくない。

日本の原発行政批判の立場から、フランスのメディアに、都合のよい情報を求めてもあまり得るものはない。フランスに学べるのは原発派の強力な議論と、それに対する脱原発派の防戦の生み出す議論の深み。それらの国内議論、ドイツや北欧の脱原発の現状、科学者たちの議論などを踏まえ、議論の多様さの明確な見取り図をもつことは、日本の原発推進派にも、反原発派にも益するところは大きいと思う。

原発推進政策についての論は政府のサイトで読めるが、それをひとまずおけば、次の二つは原発の問題を考えるに際して情報の宝庫。

  • Les interrogations sur l'avenir de l'énergie nucléaire (PDF)。「核エネルギーの将来についての諸問題」。国立行政院(ENA)のセミナー・レポート(2001年)。95ページ。現実的な行政の枠組みの中で、一応中立的立場で、原子力発電がフランスのエネルギー政策で占める地位を、歴史、現状、将来のシナリオにわたって分析する。
  • www.sortirdunucleaire.org 脱原発運動団体のウェッブサイト。Revue de presse では世界中の原子力関係のフランス語報道記事を逐次掲載していく。美浜の事故についても主要記事を続々と載せ、現在15件がアップ。

フランス人の原発への態度については、世論調査機関IFOP が行った調査を紹介する2002年11月12日のル・モンドの記事 "61% des Français voudraient pouvoir se passer du nucléaire" 「61パーセントのフランス人が核エネルギーなしで済ませればと望んでいる」が詳しい(ル・モンドでは有料記事になっているので、リンクは www.sortirdunucleaire.org でのアーカイヴへ)。上で触れたが、タイトルと矛盾するように、86%の人が原発の近い将来の廃止を不可能と考え、60%以上が種々の観点から廃止はフランスの経済、エネルギー独立などに否定的結果をもたらすと考えている。その一方でやはり60%以上が、原発が廃止されるなら電気料金が今より少々高くなっても構わないとする。原子力の安全に関する情報源の信頼度では、エコロジストに対するものが27%、チェック機関の原子力安全委員会に対するものが25%、政府に対するものが10%。結局誰も信じられていない。