米大統領選世論調査の方法−−調査対象者の支持政党別配分が結果に及ぼすもの

欧州のニュースでもなく先週の話だがどうしても気になるネタ。

先週発表された米大統領選の世論調査で、まちまちの結果が出ていたが、ブッシュ大量リードのギャラップ調査の結果はかなり話題になった。日本のニュースから簡単なまとめを引くと、

米大統領選世論調査、投票に行くと答えた有権者間でブッシュ優勢
ワシントン 17日 ロイター] ギャラップが実施した米大統領選の世論調査によると、投票に行くと答えた有権者ブッシュ大統領支持率は55%となり、民主党のケリー候補の42%に対し13%ポイントリードしている。
 9月13―15日に有権者1022人を対象に実施した調査では、選挙登録している有権者の支持率はブッシュ氏52%に対しケリー氏44%だった。
 誤差の範囲は上下3%ポイントという。
(ロイター) - 9月18日13時3分更新

この調査に関連してギャラップ調査の仕組みについて書いているのがアメリカの次のブログの記事 :


なぜ今朝のギャラップ調査は無視すべきか、そして他のギャラップ調査も同様に Why You Should Ignore The Gallup Poll This Morning - And Maybe Other Gallup Polls As Well

theleftcoaster.com Friday Sep 17, 2004

このブログの著者によると、ギャラップ社に調査方法について問い合わせた結果、調査標本についてメールで次の回答を得たという。

「投票に行くと答えた有権者(Likely Voter)」サンプル
サンプル数 : 767
共和党支持者 : 305 (40%)
民主党支持者 : 253 (33%)
独立     : 208 (28%)

「選挙登録している有権者(Registered Voter)」サンプル
サンプル数 : 1022
共和党支持者 : 381 (38%)
民主党支持者 : 336 (33%)
独立     : 298 (30%)

結果は上の記事にあるように、前者がブッシュ対ケリー 55%対42%、後者が52%対44%。

ブログの著者によれば、ギャラップ社は今回の大統領選挙について全期間、全州にわたって同様の調査方法をとっていることを確認したという。そして調査対象そのものに最初から共和党支持者が過多に、民主党支持者が過少にカウントされている以上、こうした調査は信頼できないとして、上のような記事のタイトルとなる。

このブログはケリー支持者のもので、ギャラップが送ったというメールの信憑性も確認はできないが、世論調査の標本選びで民主党支持者よりも共和党支持者を多くというのは、過去の大統領選挙の投票行動に照らして、当然のこととして行われているらしい。このブログがリンク付きで引用する、別の世論調査機関ゾグビー社のCEOジョンン・ゾグビー John Zogby氏が9月7日にすでにファイナンシャル・タイム紙に書いた「2004: It Is Not An 11 Point Race」記事は、この時期に出たタイム誌とニューズウィーク誌の世論調査結果(それぞれブッシュvsケリー 52% vs. 41%、54% vs. 43%)について触れた際、このサンプリング比の問題をとりあげる。それによると、タイム誌のは不明だが、ニューズウィークのものは、選挙登録有権者サンプルで共和党支持者38%、民主党支持者31%、独立31%」を用いているという。また、今年6月にロサンゼルス・タイムズが調査で用いた標本比率では共和党支持者38%、民主党支持者25%だったという。一方、ゾグビー氏自身は、ゾグビー社の調査では共和党39%、民主党35%、独立26%の比率を用いるという。タイム、ニューズウィークと同時期に行われたゾグビー社の調査の結果はブッシュ46%、ケリー44%いうものだ。ここから「11%の差はない」という記事のタイトルが出てくる。

さじ加減の問題もさることながら、こうした層別抽出が行われということ自体が意外だった。改めて考えてみれば、専門家には常識なのかもしれない。たしかにある程度の理屈はあり、過去の結果にもとづく経験則があるのだろう。しかし今回のようなケースはどうなのだろうか。層別抽出は推計の精度を挙げるために行われる。しかし調査すべき項目の選択肢と分類層の相関関係が極めて大きいどころか1に近くなり(ゾグビー氏は今回は10人に9人か8人は支持政党の候補にいれるという)、層の比率があらかじめ不均衡に分配されていれば、調査そのものがトートロジーみたいなものに近くなる。層カテゴリーの分配も、選挙結果についてものである以上、固定したものでなく、投票行為という事象を通じて変化する。こうなると純粋な無作為抽出の結果のほうが知りたくなる。統計調査に詳しい人の意見を聞いてみたい。

またこうした世論調査アナウンス効果というのも気になる。ブログ氏はその記事の最後で、しかるべきリンク付きでギャラップ社のCEOは共和党への寄付者だと指摘する。

大統領選に関するブログワッチャーは多いので、日本でもすでにあちこちでとりあげている問題なのではないかとも思ったが、検索したかぎり見つからないので、紹介してみた。私は、米大統領選をずっとカバーしているリベラシオンの特派員 Pascal Riché氏ののブログ「ホワイト・ハウスへの道 La course à la Maison Blanche 」経由で知った。このブログは外国人としての外部からの目と、大統領選にずっとつきあっている米国の住民として内部の目の間のバランスがよく取れており、適度な距離感をとりつつ生き生きと書かれているので愛読している。