フランス上院議員選挙結果

TV5のサイトにある結果のまとめを引くと

ちょっと女性が増え、与党UMPが少し弱くなった上院
Un Sénat un peu plus féminin, avec un groupe UMP un peu moins dominant

日曜日3分の1の改選が終り、上院では女性議員が増え、右派がなおも優勢。しかし与党UMPは過半数を割り、絶対多数に達するためには右派陣営の他の勢力(中道連合、急進派、無所属)と共闘しなければならなくなった。
PARIS (AFP) - 27/09/2004 18h19 - Au lendemain de son renouvellement triennal, le Sénat apparaît plus féminisé, toujours ancré à droite mais avec un groupe UMP qui devra s'allier avec l'une ou l'autre des composantes de son camp (Union centriste, radicaux et non inscrits) pour atteindre la majorité absolue.

こういうときに用いられる féminin という語は、「女性の、女性らしい」という意味ではなく、男女の勢力均衡において「女性化した」「女性の数が多くなった」という意味である。

上院議員の選挙については金曜日24日の記事で少し触れたが、直接選挙ではなく、州、県などの地方議員、地方自治体の代表などからなる選挙人(今回の選挙では5万人余)の投票によって選出される。選挙は県を単位とする選挙区で争われる。したがって選挙結果は選挙人の構成によって投票前からかなりの程度予測できるので、劇的なことはおこらず、報道は地味であった。今回の1/3の改選というのは全国の選挙区のうち1/3の選挙区で選挙が行われたということであり、全国的にみれば関係ない県が2/3あることになる。

今回の選挙についてポイントをいくつか。

  • 2003年に上院の改革法案が通っているが、それが適用される初の上院議員選挙である。改革の主な点は、任期が9年から6年になったこと、立候補できる最低年齢が35歳から30歳に引き下げられたことである。これに伴い3年ごとの1/3改選の原則は将来的には3年ごとの半数改選となる。過渡的措置で今回選出議員には任期6年の者と9年の者がいる。日本の新聞記事でこの改革を無視して任期9年と書いたものがあったがいまや正確ではない。また議席が321から最終的に2010年までに346に増えた。今回は過渡的措置として全議席を331議席とする選挙となった。このため改選議席118に対し10議席増の128議席が割り当てられている。
  • 政治勢力別の変化は、左派増、右派減。社会党が13議席増の91議席。緑グループが1議席から3議席に。共産党が9議席から11議席に。与党のUMPは8議席減らして154議席になり、新しい絶対過半数166を割ることになった。中道右派の「中道連合」(6議席増やして36議席)は与党UMPに基本的には歩調を合わせ2者で右派グループを形成するので右派勢力は優勢だが、独立色を強める中同連合のUMPに対する政治的要求はキャスティングヴォートを握ったことで強くなることが予想できる。他に数議席クラスの左右の諸派があり、これらが統一会派を作ったり、大会派と合流したりすることになる。
  • 女性議員が34人から56人へと大幅増。これで上院の女性議員の数は全体の11%から19%になり、国民議会(下院)の女性比率12%を抜き、女性議員比率においてはじめて上院が下院を上回った。これは2000年に成立した、政党提出の立候補者リストを男女半々にするという法律が、上院議員選挙ではじめて適応された結果である。この法律によれば地方議会の選挙から国政選挙まで比例代表制の選挙の候補者リストは男女半々でなければならず、しかも女性をかためて名簿の下にすることをふせぐため名簿順はかならず男女交互になるように定めている。市や州レベルではこのため市参事(市会議員)の数はほぼ半分になっている。ただし、上院選では一選挙区からの当選者数が数人のためこの効果は限られている。一方、男女半々の名簿に束縛されて下位になることを嫌った有力候補が母体政党と別にリストを作って立候補した例があいついぎ、これがなければ女性議員の当選数はもっと多くなったと予測されている。
  • 議員当選者としては目立つのは、まずラファラン首相。ラファラン首相が上院選に立候補し、これが首相引退の地ならしになるという、観測を伴う情報を最初ル・モンドが7月にスクープしたとき、首相官邸側は上院選立候補の予定そのものを否定したが、結局しばらくしてル・モンド情報の正しさが証明された。一方、上院議員当選が即首相引退ではないというふうに首相側は説明を変え、この説明のとおりにはなった。もう一人重要な当選者は元内務大臣のシャルル・パスクウァ。長いこと保守党の資金繰り、ロビー工作の闇の部分をひきうけていた人物で、現在は別の小会派の党首に収まっている。アンゴラへの武器売却にかかわる不正リベートの授与や自党の不正政治資金に関して起訴されているが、今年の7月まで欧州議会の議員だったため議員特権で逮捕を免れていた。今年の欧州議会選挙に落選し議員でなくなったため、いよいよ本格的に収監取り調べかと思われていたが、今回上院議員となったためまた議員特権で保護されることになる。ただしどの程度の保護があるかどうかはいろいろ解釈がある。紹介するきっかけ失ったが、ル・モンドは日曜の夜、「パスクウァ氏当選」を知らせる臨時ニュースメールを発信した。


女性議員が上院で19%を占めるになったというのは、慶賀すべきことだが、実は個人的には「マズイ」事情がある。というのは、日本の女性議員の比率が衆議院で8%、2004年7月の選挙前までは参議院で15%ほどだった。これをもとに、いままで、女性問題にうるさいフランス人に対して、下院では日本のほうが女性議員は少ない(8%対12%)ものの、上院では15%対11%と日本のほうが多く、女性議員比率後進国同士として日本とフランスはいい勝負、日本の女性の国政進出もフランスを上回っている部分があると言っていた。ところが、日本の前回の参院選挙で女性議員の比率は12%になっていたところに、さらに今回のフランスの上院選挙の19%ではるかに差をつけられ、下院、上院ともフランスのほうが "féminin" になっている。政治の女性進出の日仏比べの最後の砦がこうしてあっけなく崩れた。日本の報道では、今回の上院選挙結果に関して、与党過半数割れという報道は大きく出たが、上のTV5のまとめが示すようにフランスでは大きな話題となった女性議員増という情報は伝えなかったところもある。

◆この記事をアップしたときには、Livedoor がメインテナンス中でアクセスできなかったが、media@francophone に選挙前に書かれたル・モンンドの上院選挙のしくみ、上院の問題点についての詳しい記事「Pourquoi le Sénat reste la chambre forte de la droite なぜ元老院では常に右派が強いのか」が翻訳されている