香田氏拉致・殺害事件−−フランスでの報道(続き)

10月30日の記事で、ル・モンドの報道をいくつか紹介したが、ネット版11月1日(ペーパー版11月2日づけ)次の記事が出た。

斬首された日本人青年の家族が謝罪
La famille du jeune Japonais décapité présente ses excuses

LE MONDE | 01.11.04 | 14h12

死亡が伝えられた後沈静化したが、家族が一部の世論から批難の対象になったこと、4月の事件のときほどではないが政府がメディア・リンチに荷担したと批難する意見があることを伝える。国内議論を伝える報道となっており、本体の事実関係の部分に関しては、基本的に記者の判断は避けている。

が、最後の1パラグラフに、記者のかなりはっきりした政治的、社会学的解釈がある。

前回の人質事件の際に政府の態度によって作り出された毒々しい雰囲気の中、経済的危機からくる社会的不公平の拡大の犠牲者ら、一定数の人々のフラストレーションが漠然とした不安感の原因となっている。そうした感情が、列を離れた若者に対する批判の中に、ひとつのはけ口を見出している。

Mais, dans le climat délétère créé par l'attitude gouvernementale lors des précédentes prises d'otages, les frustrations de certains, victimes de l'aggravation des injustices sociales due à la crise économique, sont à l'origine d'un mécontentement diffus. Ce sentiment trouve un exutoire dans des critiques à l'encontre des jeunes qui sortent du rang.

この記事がまた議論の対象となるとすればこのあたりだろう。現在、ル・モンドの読者お勧め記事の第8位。


◆前回のコメントに答えて

10月31日の記事の中で、ル・モンド特派員のポンス氏の記事に関して

ただ、この人の記事にはいつも、若者の行動をなんとか理解しようと視線がみられる。イラクへ行くボランティアの若者、セキュリティのことをあまり気にかけないバックパッカーの若者、ネット自殺する若者、そうした若者−−それは大方、彼が日本に住みだしてから生まれた人々だ−−の行動を道徳的見地から云々するのではなく、そこに何か新しい現象を見、そしてそこに、もしかしたら正の方向でも負の方向でも何か日本という社会の変化があるのではないかという問いかけが感じられる。

と書いたところ、

紛争地へのボランティア、セキュリティを気にかけないバックパッカー等に関するルモンドの記事の紹介ですが、日本も欧米並みになったという意味にもとれるし、日本だけに特有の現象だという意味にもとれました。そこで個人的な印象をぜひお聞きしたいのですが、現在の欧米と日本を比較したとき、とくに「セキュリティのことをあまり気にかけないバックパッカーの若者」は、日本だけに目立つというように映っていますか?

という質問をid:tokyocatさんからいただいた。

3つの現象をひっくるめてあいまいな書き方をしたことが、質問につながったのだと思う。ボランティアが「欧米並み」、「ネット自殺」が日本特有現象としたときに、その間におかれた、「セキュリティを気にかけないバックパッカー」はどうなるかと。コメントされた yiyi さんが、「日本のバックパッカーは、言葉に潜むイデオロギーを知らないところがあると思います」(詳しくはyiyi さんのブログ → http://hampaso.exblog.jp/i5)と書いている。私も同じような印象を持っている。

私の印象を別として、香田証生氏の行動についてフランスのメディア記事はどう書いているかというと。少しでも彼の行動についてなんらかの形容をした記事は3つほどある。

まず、リベラシオン

Shosei Koda, routard naïf qui voulait voir l'Irak
Par Michel TEMMAN
vendredi 29 octobre 2004 (Liberation - 06:00)
Tokyo de notre correspondant

この記事にはややあいまいである。「ナイーブ(無知)な」バックパッカーという形容詞が見出しに出てくるが、多くの報道が日本国内での新聞での批判としてこの「ナイーブ」を" "にくくる。この記事でも本文ではそうなっているが、なぜか見出しではこのナイーブが裸のままになっている。記事の中では一方、彼のことを「場数を踏んだ旅行者 un voyageur aguerri」とする。全体的な記述は、動機不明の謎の行動という捉え方がみられる。

31日に Courrier International が採用する AFP の記事では、

Shosei Koda, un candide nippon tombé au fond de l'enfer irakien
TOKYO, 31 oct (AFP)

「純真な日本人がイラクの地獄の底に落ち込む」とでもなるが、この candide には、純粋だが現実を知らないというニュアンスがある。ただ本文ではやはり「ナイーブ」は日本のある種の新聞の形容としており、彼のナイーブさに対する批判は、おもに日本国内での批判を紹介することによっている。

31日に触れたポンス氏の記事「香田証生、24歳。日本の若いバックパッカー。 Shosei Koda, 24 ans, jeune routard japonais」では、最初の記述では次のような表現がある。

他の多くの先進国が被る悪(犯罪、麻薬、暴力)から比較的免れている社会の外での現実を知らないまま、列に加わることを選ばなかった若者の一人 Un de ces jeunes qui, ignorant la réalité extérieure à une société encore relativement épargnée par les maux de beaucoup de pays avancés (criminalité, drogue, violence), ne sont pas entrés dans le rang.

これとは別に、「驚いたことに」という形容をつけながら、他にも複数の日本人のバッカパッカー旅行者がイラクに入っているという情報を伝える通信社の記事もあった。

最初の疑問に戻れば、多かれ少なかれどの記事も、その行動はやはり、「欧米的並み」に普通とはとらないと言っていいだろう。香田氏やその家族に対する批難に対して最も批判的であり、別の面では彼の行動に理解を示そうとするポンス氏が、この面ではもっともはっきり距離をおいた批評をしている。

人が外国に出ると国と国の対立の中に自らがあり、自分の身の安全も局面によってはそれにかかわっているということに良くも悪くも日本の若者のほうが意識的でないのは確かといえる。特定の価値判断と結び付けられて解釈されると困るが、まだ多くの国で若者が兵役につくことを考えるとその差は歴然とする。この「ナイーブさ」はもっとも、軍隊を紛争地に出しながら、人道援助活動ということばで、国際的なイデオロギー対立に自らが巻き込まれていることを糊塗している現政権やそれを支えるイデオロギーとセットになっている。


◆殺害映像

AFP電はなにをとちくるったか、殺害時の映像へのリンクを載せるフランス国内のサイトへのURLを含む記事をお昼に出した。映像ファイルはフランス国内のサーバーにはなく、問題のサイトは、表紙ページとリンク集だが、数時間後にこのサイトは閉鎖された。