日本人の人質

斎藤昭彦氏が人質になっているニュースは、フランスでは第一報は比較的早かったが、続報の詳しいものは出ていない。自宅がマルセイユにあり、外人部隊に20年以上所属していたということで、フランスからみてもまったく無縁のニュースではないはずなのだが。それどころか、もし氏がフランス国籍を取得していれば、フランス政府は事件処理の当事者となっていたはず(公開されたパスポートで日本国籍であることはわかり、日本とフランスの間で二重国籍を認めていないので、原則的にはフランス国籍ではないということになるが、書類上は、事務手続きの抜け穴から、両方の国籍を所有しているという事態は一般的には可能性としてはあり得る)。

フランスの報道でも「外人部隊退役者」という表現は出るが、それ以上の情報は出ない。彼のフランスでの過去についてフランス語で読めるのはカナダの新聞の記事だ。フランス側のこの沈黙についてはいろいろな理由があるだろう。人質の人物の活動が占領軍側に属していてしかも、医療活動、報道活動のようなジャーナリストから見て価値ヒエラルキーの高いものではないということ、外人部隊というフランス社会でも陰の部分についての暗黙の了解ともいえる沈黙、そしてその陰の部分による縁のためにフランスが巻き込まれたくないという気分(人質が新たに生まれそして帰ってこないことにフランス人は疲れている)、過去の経歴は三面記事に属することという判断、そして人質のバックグラウンドについてその軍事関係者としのて過去を公にすることについての慎重な態度、あれこれの要素がないまざった。

逆にネットで見る日本の新聞の報道からは、人質としての斎藤氏によりも、冒険者としての彼に対する興味本位的な姿勢のほうが見え、その冒険物語にはしゃいでいるような印象を受けるがどうだろうか。人質犯人が日本の新聞の三面記事欄を読むところなんか書いている記者も想像していないだろうけど。

以前から間接的に話には聞いていたが、日本人の外人部隊入隊者はかなり多いようだ。フランスならそれで一生を終えるようなちゃんとした身分的保証を捨ててまで。しかも任期をきちんと終える人がたくさんいるのを見ると単なる若者の気まぐれとも言えない。彼らをどんな情熱がかきたてるのか。日本に彼らのような人々のいる場所はないのか。ル・モンドの特派員氏あたりがルポルタージュをしてくれれば興味ある記事になるはずだが。そんな若者たちの姿を追う映画ができれば、元人質のバッシングについてよりも見せ場の多いものになるかもしれない。