「危険な女」の2度目の受勲−−シャロン・ストーン

「母国では「危険な女」の私をフランスは歓迎してくれる」とシャロン・ストーン
Sharon Stone: la France m'accueille quand mon pays me trouve "dangereuse"

20-05 AFP/voila.fr

アメリカの女優シャロン・ストーン氏が、金曜日に芸術文化勲章オフィシエ章を授章。カンヌ映画祭の総監督ジル・ジャコブ氏より勲章を伝達された氏は、フランスへの熱のこもった賛辞を送った[...]。
「母国では危険な女と言われれている私を、貴国は温かく迎えてくれます」と反ブッシュの立場で知られるシャロン・ストーン氏はフランス語で述べた。
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「私はファム・ファタルと呼ばれていますが、それは、米語にはそれを表現する語彙がないからです」とも『氷の微笑 Basic Instinct』の主演女優は語った。
L'actrice américaine Sharon Stone, qui a reçu vendredi les insignes d'Officier des arts et des lettres, remises par Gilles Jacob, président du Festival de Cannes, a rendu un hommage appuyé à la France[...].
"Lorsque mon pays dit que je suis dangereuse, votre pays m'ouvre les bras", a déclaré en français Sharon Stone, connue pour ses positions anti-Bush.
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"Lorsqu'on m'appelle fatale, c'est parce qu'il n'y a pas de mot américain pour le dire", a encore indiqué l'interprète de "Basic Instinct".

カンヌ映画祭明日今晩の授賞式で終りだが、イベント的にはこの受勲はその前の一つのハイライト。シャロン・ストーンは今年は、ジム・ジャーマッシュ監督の『Broken Flowers』の主演女優としてカンヌ映画祭に参加している。

勲章を受ければ、その国に礼を言うのが普通だが、それにしても、上のようなことばに加え「私がフランス人の心を持っているのは、隠し立てするまでもなく誰もが知っているとおりです」とまで言う熱の込めよう。フランスとシャロン・ストーンの関係は完全な両想いで、『氷の微笑』の女優くらいしか印象がなかった私は、彼女のフランスでの人気、というかある種の権威の格別さに驚いたことがある。1995年にすでに芸術文化勲章の下のランクのシュヴァリエ章を授章しているし、2002年のカンヌ映画祭では審査員を務めている。

アメリカ人から見て、彼女の上のような発言が面白いはずはないが、そのためかYahoo.comで見ても、Googleニュースサーチの英語版でみても、このニュースは無視されていて、せいぜい写真が出てくるくらいだ。日本でも報道はないようだ。

ファム・ファタル(魔性の女・運命の女)」ということばについての彼女のコメントは面白い。アメリカでそういうタイプに人気がないとも思わないが、フランスでこのイメージを演じ、引き受ける女優、女性が特別のそして幅広い人気を持っていることはたしかだ。性的(肉体的・知的)アピールを駆使して男と権力ゲームのかけひきをするタイプ、イノセントな見かけの裏側に男を破滅させるような無償の暴力性を秘めたタイプなどそれにもいろいろなヴァリアントがある。日本の映画のなかで、静かに男を見守り、包み込むという聖母的なタイプに根強い人気があるのと好一対かもしれない。

ついでに、勲章についてちょいとお勉強。といっても大したことを知っているわけではないけれど。

フランスの勲章というと「レジオン・ドヌール」が一番有名だが、比較的日本人の受章者が多くて他に名を知られているものに実業界に受章者の多い「l'ordre national du mérite 国家功労賞」、学術・教育関係の受章する「 l'ordre des palmes académiques パルム・アカデミック勲章」、そして、芸術家・文化人が受章するこの「 L'ordre des arts et des lettres 芸術文化勲章」などがある。前2者は「共和国大統領の名において」、パルム・アカデミック勲章が「教育大臣の名において」、 芸術文化勲章が「文化大臣の名において」それぞれ授与される。

それぞれの勲章に下から順番にシュヴァリエオフィシエコマンドールのランクがあり(前2者にはさらに「グラントフィシエ grand officier」、グラン・クロワ(grand'croix)の特別ランクがある)、「騎兵」「士官」「司令官」というかつての軍隊の階級の概念に対応している。同じ勲章でも上位ランクの勲章は、その下の勲章を得てからというのが原則で、シュヴァリエオフィシエコマンドールの順番でもらっていくことになる(例外的に飛び級もある)。

したがって、シャロン・ストーンの「芸術文化勲章オフィシエ章受章」のニュースには、彼女がすでにシュヴァリエ章を受章しているという事実が基本的には暗黙の前提となっていることになる。それが1995年というのは、上に紹介したとおりで、見出しに「2度めの受勲」としたのはそれゆえ。「芸術文化勲章」についての Wikipedia(仏語版)の説明によると、1年の受章者の「定員」はシュヴァリエ450人、オフィシエ140、コマンドール50人であるという。日本語の情報を探したら、横浜市のページに、元横浜市長高秀秀信氏の1996年の受章(オフィシエ章)を紹介するページに簡単な説明があり、

フランス芸術文化勲章は,1957年5月2日に創設され,芸術及び文学分野の創作 活動や,フランス国内及び世界各地の芸術や文学の普及に顕著な功績のあった者を 表彰する。 過去の主な日本人受章者(オフィシエ章)−−安川加寿子(東京芸大教授),白洲春正(元東宝東和社長),岩城宏之(指揮者),大島 渚(映画監督)

ということだそうだ。

映画関係では他に岸恵子氏がやはり去年オフィシエを受章しているし、北野武氏が99年にシュヴァリエを受章したのは大きく報道された。

受章者をつらつら見ていると早期受章には映画関係者、俳優が有利なようだ。昨日のシャロン・ストーンの前には、先月ブルース・ウィリスがやはりオフィシエを受章し話題になったが、日本の重鎮文化人・知識人がかなりの歳になってからシュヴァリエを受章している例などを見るとちょっと複雑な気持ちにななり、与えるほうの見識はどうなっているのかと思わないでもない。もっとも与えるほうからすれば広告塔の意味もあるので仕方もないだろう。

同一勲章の中のランクという問題は、受けるほうにとっても、困ったところもあるようだ。日本語の経歴紹介に受勲が書いてあって、ランクが一切分からないこともある。シュヴァリエオフィシエで、「シャロン・ストーンやブルース・ウイリスにはやはりかなわないね」とか「見ろ見ろ、こんな大スターといっしょなんだぜ」と無邪気に喜べる人ならいいが、「なんだノーパン女優より下じゃん」とか「あ、ダイハードのマッチョマンといっしょね」と言われて面白くない人には、あまり皆が「鑑識眼」を持って触れてほしくない事実には違いない。本人が触れたくない勲章のランクの詮索をするのは褒められた話ではないが、もっとも、受章で権威づけをしようとする本人や周りの人は、その時点で自らで、「持たざる者」との差別化を図っているわけだから、「持てる者」の間の小さな差別くらいは甘受してしょうがないんじゃあ...うーん、受章予定のない人があまり下世話な詮索をすると、だんだんことばづかいにも品格がなくなってくるので、この辺で。

◆追記 授賞式は今夜。シャロン・ストーンの主演作「Broken Flowers」は「審査員賞」を獲得。