§6.Skyrock, Skyblog − 「収斂はコードだ」または「ネットとラジオの融合」

Skyblog は、上で既に述べたように、R&B、ラップ、ヒップホップ専門のラジオ局 Skyrock の作ったサービスである。始ったのは2004年1月という説もあるが、2003年12月27日という日づけも目にする。この Skyblog の動きについては、Moveble Typeのようなプラットフォームに代表される正統的なブログ文化の伝統にいた pointblog.com の作者たちにとって、予想外だったようだ。2003年2月22日の記事で、驚いたようすで、こうしたサービスがはじまっていること、そしてすでに8000のブログが開かれていると報告している。最初、伝統的なブログの展開を進める人は、このSkyblogでブロガーの自由度が制限されていることを、快く思わなかったようでで、 「二流ブログ sous-blog」、「代用品 ersatz」などの形容がみられる。しかし、それにもかかわらず Skyblog は破竹の勢いで伸びた。

そして、このSkyrockの ブログ進出は、社長で創業者のピエール・ベランジェ Pierre Bellanger(1959−)のはっきりした戦略・哲学に基づいていることがわかり、彼の考えはメディア業界、そしてメタブロガーたちの関心をひくようになった。Skyblog開設1年後の2003年12月には、最初Skyblogに疑問を表明していた pointblog.com もベランジェに直接インタビューしそれを発表している。

実はベランジェは、Skyblogの開設と時を合わせるように、2003年の1月にSkyrockのサイト上で、「La convergence, c'est le code 収斂はコードだ」と題する論文を発表している。出版を予定した本として書かれたというこの論文は PDF版で47ページほどで、ローレンス・レッシングの「コード」概念をキーワードに、文化やコミュニケーションに関する彼自身の哲学を展開し、マイクロソフトやAOL、Yahoo、ebay、Sonyなどの戦略を定義し、金融・産業・政治各レベルでの戦略を展望するなど大風呂敷を広げながら、彼の目指すメディア戦略を語る内容になっている。「デジタル技術のもとにあらゆるメディアはすべてが、統一的なコードという概念に収束していくのであり、そのコードを扱うのがこれからメディアだ」というような、ある意味でありきたりの結論になっていくが、細部はいろいろな示唆があって面白い。

されに彼は、メディアの中で重要なのは「コンテンツへのアクセスよりも他人とのコミュニケーションへのアクセス」だと強調する。コンテンツは他とのコミュニケーション、コミュニティ生成の触媒としてむしろ重要であるのに、従来のメディアでは、デジタル技術の利用にあたって、それがコンテンツの流布に付随した二次的なものとしてしか捉えらえていないと批判する。そして、コードによって一元化されたあらゆるメディア的チャンネルが、他とのコミュニケーション、コミュニティの形成に役立つものとして利用されるべきだと考える。この論文の中でblogについては、一言しか触れられていないが、そうした文脈で、そうしたチャンネルの一つとして挙げられる。

そして彼にとってはその具体的な試みの場が、Skyradio = Skyblog ということになる。Skyblogが始まり、この論文が書かれたしばらく後、Skyblogの台頭が注目されてきた2003年3月のインタビューでは、一日あたり400万人の視聴者ががSkyradio=Skyblogという一つのプラットフォームに統一されたインタラクティヴな環境で、フォーラム、チャット、ブログ、SMS、電話伝言サービスを通して交流しているを、誇らしげに述べている。そして、Skyblogのブログ数が100万を突破した直後の、2004年11月の国際シンポジウムでは「私たちのラジオはもはや伝統的なラジオではなく、それはラジオ・コミュニティになった Notre radio n'est plus une radio traditionnelle, elle est devenue une radio-communauté」と宣言する。