「フランスには貧困層は存在しない」

政権保守党の議員が、「あるインタビュー」で次のように答えた映像が、今ネットで出回っており、火曜日にはラジオでも放送された。

インタビュアー:フランスではどのようにして貧乏人を市内から去らせ郊外に行かせることに成功しているのですか。

議員:貧困層と言われるようなものはフランスには存在しません。ご期待にそう返事ではないかもしれませんが。それは稼ぎが他の人よりちょっとばかり少ない人々のことです。そうした人々の稼ぎは他の人々よりは少ないですが、皆、他の人と同じような住居を得ています。違いは彼らの家賃がもっと安いことです。そして皆よい暮らしをしています。フランスには悲惨な貧困というものはありません。貧困層と言われるものは存在しません。もちろん、いくらかの住所不定者もいるにはいますが、それは、社会の外で暮らすことを自分たちで選んだ人々です。そしてそういう人々についても、私たちはよく面倒をみています。彼らのために保護宿泊施設があります。というのもフランスの冬は寒いですから、悲惨な目にあっている人を、外に置いておくわけにはいけません。なので、そういう人に泊まる場所を与え、食べ物を与え、体を清潔にし、必要なものをすべて与えています。しかしそういった人はかなりまれで、それは社会の外で生きることを決めた人々、働きたくないと思う人々、社会から拒絶されて生きようとする人々なのです。

しゃべっている議員の名は、パトリック・バルカニ Patrick Balkany。バルカニ氏は、サルコジ内務大臣が市長を務める Neuilly sur Seineの隣り町のLevallois-Perret の市長でもあり、人脈的にも後者に近い。今回の騒動の件でパリ近郊の町の市長ということでよくTVにも出ていた。

このインタビューには実はしかけがあって、オルタ・グローバリゼーションでゲリラ的メディア戦をやっている "Yes Men"というグループが、Canal+で 風刺ニュース番組を担当しているKarl Zeroのチームのために、どっきりカメラ的に撮影したもの。米国のニュース番組を装って、フランスの貧困の状況について話してくれということでしゃべらせたという。もちろん上のようにとうとうとしゃべったのはガルバニ氏の自発的意志である。

そして実は、これは1年前にとられていたのが、ずっとお蔵入りになって結局放送されなかったが、これが今朝(23日水曜日)あたりから、インディメディア系のネットで流れ、ラジオやNouvelObsのような主流メディアのネット版でもとりあげられるようになったという次第。

ルカニ氏はラジオ局のEurope 1でインタビューに答え苦しい言い訳をしていた。

外国からの批判があると、自己防衛的に自国の欠点を小さく見せようとしたくなるのは人の情。これは外人でさえ、ある国に長く住み受け入れ国に愛着を持ってくると反射的に出てくる感情で、こんなブログを書いていると私もときどきバランスの取り方で苦労するので、その気持ちは分からないでもないが、それにしてもここまでくるとシュールレアリストだ。1年前のインタビューだが、どのくらい保守系議員が貧困層に対して無神経になり、おごっているか、その本音が、特殊な状況下で炙り出された形になった。

ルカニ氏は、1997年に市の職員を、自宅の管理に使ったということで、15か月の執行猶予つき禁固刑と2年間の被選挙権剥奪にあったことがあり、他にも、イル・ド・フランスのHLM建設・維持をめぐるおおがかりな汚職事件で名前が常にささやかれる存在でもある。

1年前にとられお蔵入りになっていたこのビデオがどこからか流出してきて、今流布されるようになった事態は興味深い。もう我慢できないと思っている人々が、荒れる郊外の「クズ」の集まりの中だけでなく、どこかにもいる。