「大統領への手紙」

リールの Axiom という ラップミュージシャンの「大統領への手紙」と題する曲。

今夜はコメントお返事モードだったので重めの記事や翻訳に手がでないので、音楽なぞで一服。赤い醗酵後液体ととも感想を書いていますが、寝入らずにアップできるか...→ 赤い液体がききすぎて明日に持ち越し。

■持ち越し部追加

Monsieur le Président,
Avec tout le respect que je dois à votre fonction
Je vous demanderais un peu d'attention
Je me présente à vous en tant que citoyen,
....
Monsieur le Président,
Je vous fais part de ma grande indignation
Face aux événements, comprenez ma position
Je suis français, ai grandi dans les quartiers populaires
Mes grands-parents ont défendu ce pays pendant la guerre
Mes parents eux aussi l'ont reconstruite cette république
Rappelez vous ces ouvriers qu'on a fait venir d'Afrique
Et Leurs enfants ignorés par le droit du sol
Citoyens de seconde zone, de la naissance à l'école
J'accuse trente ans de racisme et d'ignorance
La répression sans prévention en France
....
Je crois en la république, la vraie
Car c'est le rêve du peuple et des opprimés
Colonisation, chômage, et précarité
Ont engendré violence, inégalités
La Discrimination, à l'embauche, à l'emploi, cela va sans dire
Provoque la fuite des cerveaux, laisse une jeunesse sans avenir

バンリュウの若者の素朴な語り風とラ・マルセイセーズの組み合わせ(を演出)。ネットで静かに流行っているらしい。全般的にはポリティカリ・コレクトによくまとまっているが、歌詞の部分では、政治戦略的にいくつかの問題があり広範囲に人を動かすメッセージになりそうもない。

  • 「路上で(街頭闘争で)第6共和制が今生まれた Dans les rues, la sixième république vient de naître」とう部分、騒動の政治的意味について、現在の状況からあまりにかけ離れているばかりか、「第5共和制の終焉」という概念が問題含み。たしかにこれは、アルノー・モントブールのような社会党の一部の新勢力の主張でもあるが、国民戦線のル・ペンのテーマでもあるし、過去の政治との切断 rupture をキャッチフレーズに、ヴィルパンとの差異化をはかるサルコジのイメージ戦略にもつながる。したがって、騒動の革命的イメージを本能的に避ける保守派に反発心を与えるのはいいとして、その代償の左派の人々のシンパシーの獲得がきわめえ危うい。クリシェに属する単語だけで勢いづけをしたようなイメージだけが残る。
  • さらには「第6共和国はあなたの辞職を待っている La sixième république attend votre démission」と「シラク辞めろ」がオチになり、これはシラク嫌いの同世代の聴き手へのアピールを意識したものと思うが、「あなたの大臣は(サルコジ)は恐怖政治を敷いている votre ministre instaure la terreur」との兼ね合いで、上のようにシラクサルコジ−ヴィルパンの3つ巴になっている状況では、ターゲットがぼける。今の状況でシラクの辞任を求める声はどの層にもほとんどない。シラク辞任の叫んでいたのは、憲法条約批准失敗の直後の左派層の一部だが、現在ではこの層も含めて、非常事態的雰囲気の中の防衛的反応からか「共和国大統領」の権力が死体になっていることへの不安感のほうが強い。サルコジ内務大臣の辞任をはっきり要求した共産党シラク大統領については批判を手控えている。2007年のシラクの再立候補をあからさまに牽制する発言を今しているのはサルコジ側近。
  • シラクをおちょくるのは騒動勃発以前にはたしかにアラ・モードだった、それを引きずった二正面作戦が逆に、上のような状況で、今は小賢しく聞こえる。みえみえのナイーブさで、皮肉たっぷりにでも、共和国(自由・平等・博愛)建前上の守り手としての大統領閣下を最後までもちあげて、この面でも、ポリティカリ・コレクトを維持しておいたほうが、もっと広範の共感が得られたのではと思う。シラクの演説がこの歌が訴えている差別の告発の内容を含んでいるだけに特に。そしてラップ歌詞の暴力性、共和国への敵対意識が急にとりざたされるようになったこの1週間ほどの空気では。もっともこの歌は14日のシラク演説の1週間前の7日発表されているので状況の進展が、作り手の政治感覚の読みの甘さを追い越してしまったといえる。


temjinus さんが「大統領への手紙」(あるいは「拝啓 大統領閣下」とでも訳すべきか)という歌詞のアイディアはボリス・ヴィアン"Le déserteur (徴兵忌避逃亡者)"を下敷きにしていると指摘されている。 歌詞はヴィアンで、曲の部分でラ・マルセイエーズを使うというのはゲンズブールに発するものだとしたら、シャンソン史の偉大な挑発者・反抗者たちの伝統を受け継ぐものといえる。歌詞を読み、聴けばわかるが、クラシックにきちんと脚韻を踏んでいる。前衛かぶれの私としては、フランスのラップにあまり情熱的になれない理由の一つは、言語表現形式をほとんど破壊しないその古典性・保守性にあるのだが、そんなことは今は脇にき、こうした作詞法をフランス語で巧みにあやつれるということ、こういう作詞法が自発的反応になるほど習慣化(あまり使いたいくないが「ハビトゥス化」)しているということは、すでに作詞者たちが、学校教育や他の文化的接触を通じて、どれだけ深くフランス文化に統合されているかを示すものに他ならない。歌詞の内容の基調をなしている「自由・平等・博愛」の訴え、お決まりのゾラの J'accuse へのレファレンスなどについてはいうまでもない。郊外の移民層の若者たちの同化についてのE.トッドの観察は当を得ていると思う。

ぐだぐだ書いてきたが、実はこの歌の中で最も危険な雰囲気を醸し出しているのは、私の聴感にとってはラ・マルセイエーズのメロディー。このメロディが背後に流れているだけで、さっと緊迫感が漂い、元歌の歌詞との連想で、無条件に人を蜂起の感情に誘う何物かがある。