どこまで続くサルコジ砲

今日(日曜)の晩にニュースとしてはいってきたサルコジ発言の一部。もうこの名前の人のことはあまりとりあげないようにと思っていたばかりだが、書いておく必要がある。

フィンケルクロートはフランスの知性の名誉」

Nicolas Sarkozy juge qu'Alain Finkielkraut "fait honneur à l'intelligence française" LEMONDE.FR | 04.12.05 | 20h36 • Mis à jour le 04.12.05 | 20h36

フィンケルクロートの発言については私も11月27日の記事でちょっと触れたが、shiba さんも翻訳紹介(フィガロにのったソフトヴァージョン)し、きちんと論評を加えている(これこそ日本の知性の名誉です)。フィンケルクロートは騒動勃発の直後から、この騒動を「人種・宗教暴動」と呼び、極右のル・ペンまがいの発言をくりかえしていた。国内では黙殺(はれものにさわる扱い)だったが、11月17日、イスラエルの新聞 Haaretz の英語版にインタビューが掲載され国際的ニュースとなり国内でも大きくとりあげられた*1。反人種差別団体MRAPが「人種憎悪扇動」で訴えるというところまでいったが、本人が謝罪を表明し、手打ちとなっていったん沈静。上の発言はそれを蒸し返したもの。

これが名誉なら「フランスの知性」も地におちたものだと個人的には思うが、そうでないと思う人もいるらしい。フーコーデリダの読解に頭を悩ませているかたはフランスの内務大臣が共和国の知性の栄誉と判断した Haaretz の英語記事を読みにいくといい。極めてわかりやすいです。ただし私のように酒量があがっても責任は負いかねますが。あと、知性豊かなしゃべり声は私の24日の記事のリンクから。

「ラップグループに法的制裁を」

M. Sarkozy réclame des sanctions judiciaires contre les groupes de rap (NouvelObs/AP 04.12.05)

これはすでに、約200人の右派の国会議員らが7組のラップグループをその歌の歌詞が「暴力扇動」、あるいは「風俗壊乱」にあたるとして訴えている事実に賛意を表明したもの。しかも発言しているのは内務大臣である。「歌」をうたって政治家から牢屋や人を破産させるような罰金で脅されるとは(ケースによっては最高刑は3年の禁固と7万5000ユーロの罰金とか)、猫屋さんも言うように「フランスもここまで落ちたか」です。

ラップに対するこの法的制裁問題については、ル・モンドは11月24日に「禁歌指定になるラップ Le rap à l'index」という社説をかかげており、またこれみよがしにやりだまにあげられた曲が聴けるようなフラッシュファイルを掲載していた(もう、リンクがみつからない)。

12月1日づけのユマニテ紙が「ラップ−−警官が転んだら、それはヴォルテールのせい Rap « Si le flic est tombé par terre, c’est la faute à Voltaire »」というすてきなタイトルの地域教育ワーカーの寄稿記事を掲載している。これはユゴーのラ・ミゼラブルの中の台詞で、記事の中ではこれをもじって「カルチエで車が燃えるのは、それはラップのせい」と。

「誤審をした判事に冤罪被害者への賠償金を分担させよう」

M. Sarkozy propose que les juges responsables d'erreurs judiciaires participent à l'indemnisation des victimes (NouvelObs/AP 04.12.05)

タイトルのとおり。これは先日、ほとんどの被告に冤罪として上級審で無罪判決の出たウトローの幼児性虐待事件で、事件を担当した予審判事の事件処理に厳しい批判がなされているのを背景にしたもので、裁判手続きのひどさには私も激しい怒りを覚えるが、これと判事に対する個人的制裁の方法は別の話。ポピュリズムもここまでくるかという感じ。この内務大臣は6月にも、仮釈放者が再犯で殺人事件を犯して三面記事を賑わせたときに、仮釈放の決定をした判事の首をとるといきまいて、法律家の総スカンをくったばかり。司法の独立もなにもあったものではない。だいたい司法関係は司法省の管轄だ。同種の提案なら、内務大臣はおひざもとの国警に適用したほうがいい。不当逮捕の警官は賠償金の負担を、で。不当逮捕が減ればバンリュウも少しは静かになるだろう。



それにしてもこういう言辞に拍手喝采する人たちがいると見越してのことだろうが、このままでは共和国の原則ががたがたになる。正直言って自分の思い入れのある国のニュースとして日本にこんな情報を発信するのは恥ずかしい。

上の3つの発言は、今日(日曜日)行われた1回のインタビューでなされたもの。国内的には他にもいろいろ問題発言があるがこの辺りで十分だろう。サルコジ氏、昨日発表された世論調査で、2007年の大統領選挙でヴィルパンとの対決になったら、ヴィルパン勝利という結果が出たので、いらついてのこと、あるいはさらに世論の一部をあおって票をひきつけようとの計算なのかもしれない。

とにかくこの調子で2007年春まで続くとしたらやりきれない。2007年の結果によってはもっとやりきれないことになるかもしれないが。とにかくあんまりひどくなるようだったらこっちの身の振り方もちょっと考えなければ...*2

私がこの記事を書いている間に、猫屋さんも怒りの速報をあげている。

補 「サルコジ・イズ・ノーグッド」キャンペーン参加

在仏同胞移民の明るい未来のためにご協力を

詳細は猫屋さんの記事「ニコラ・サルコジ大活躍、とサルコジ・イズ・ノーグッド」 04/12/05

*1:たとえば lemonde.fr 11月23日 La voix "très déviante" d'Alain Finkielkraut au quotidien "Haaretz"

*2:こんな記事ばかり書いていたらいつか向こうから身の振り方を心配してくるかもしれないが。