バンリュウ騒動関係仏語記事クリッピング

10月28日に始った郊外の騒動、2007年の大統領選挙の文脈にそれが置かれているようす、騒動の背景にある特に移民層における都市・社会問題などなどについて、印象にのこった記事を紹介。フランス語ばかりになるが、さすがに訳したり、詳しいレジュメを作る余裕はないので、とにかくリストだけでも。ル・モンドリベラシオンなどの主流メディアでないもの、インディメディアからの記事もあるが、政治的に極端な主張をしているものは避けたつもりである。フランス語の読める方が、一つでも興味を持って読んでもらえれば幸です。そして、とりあげて紹介してくれればもっと。内容に関係なく、記事の掲載日時が新しいものから古いものへと並べてある。


ファントム、リーダー、奇跡の生還者

"Le fantôme, le chef et le miraculé Chirac, Villepin, Sarkozy: les troubles en banlieue ont redistribué les cartes du pouvoir dans le trio de tête. Enquête dans les coulisses de trois semaines d'improvisation, de calculs et de revirements." par Antoine GUIRAL et Vanessa SCHNEIDER Libération : lundi 05 décembre 2005
「ファントム、リーダー、奇跡の生還者 −− シラク、ヴィルパン、サルコジ。バンリュウの騒動は三人の首脳の力関係を変えた。政治の舞台裏での3週間のインプロヴィゼーション、計算、急展開をたどる」
http://www.liberation.fr/page.php?Article=342455

シラク、ヴィルパン、サルコジの三つ巴の争いは現在も続き、今日(6日火曜日)も、夜のUMPの幹部会議での大統領候補指名選挙に向けての党規約改正決定という大きな節目があったが、上は騒動がはじまってから3週間の間、この三人がどのような戦略をとり、党内でその力関係がどのように動いていったかを、裏幕ドキュメント風に書いているリベラシオンの最近の記事。事件初期窮地に追い込まれていたサルコジが、11月2日の議員総会であっというまに勢力を挽回する様子を描くところなどは、手に汗握る歴史講談風。フランスの今の政治情勢の予備知識がないとちょっと読みにくいが、ある程度知っている人にはお勧め。シラクがずるずると力を失っていくようすが痛ましく描かれている。

民衆地区−−社会的無秩序の領域?

"Les quartiers populaires : territoires du désordre social ? Banlieues et violences urbaines : les orientations associatives et militantes confrontées aux limites de la politique de la ville et de l’intervention sociale" par Raymond CURIE, travail-social.com, lundi 5 décembre 2005
「民衆地区−−社会的無秩序の領域?バンリュウと都市暴力。都市・社会政策の限界に直面するアソシエーションと活動家のめざす方向」
http://www.travail-social.com/oasismag/article.php3?id_article=534

上の記事とは正反対にこちらは政治騒動に関わるものではなく、長期的視点でバンリュウと暴力の関係を、学校、家族、警察などさまざまな因子とともにまとめ、地域活動の指針に示唆を与えようというもの。論考というより、箇条書きのレジュメ風。著者は社会学者で、この主題で著作があるから、そのまとめではないかと思う。問題の所在を一覧するのに便利。

バンリュウの蜂起に歴史あり

"Le soulèvement des banlieues a une histoire I et II", Abdellali Hajjat, Diplômé de l’Institut d’études politiques de Lyon Auteur de Immigration postcoloniale et mémoire (Editions L’Harmattan), La Nouvel République 03/04-12-2005
「バンリュウの蜂起に歴史あり 1, 2」
http://www.lanouvellerepublique.com/actualite/lire.php?ida=33083&idc=16
http://www.lanouvellerepublique.com/actualite/lire.php?ida=33121&idc=16

ポストコロニアル的状況におけるフランスの移民について研究書や映画作品のある著者が、今回の騒動をバンリュウの移民の政治的運動の文脈の中で2回に分けて、アルジェリアの新聞に連載。ネグリのサイト Multitiude にも11月30日づけで、ほぼ同じ文「Les quartiers populaires français ne sont pas un « désert politique » Le soulèvement des banlieues a une histoire フランスの民衆地区は政治的砂漠ではない バンリュウの蜂起に歴史あり」が掲載されている。ページの体裁は後者のほうが読みやすいかも。

フランス −− 開かれた扉?

"La France - une porte ouverte ?", L'ancien ambassadeur tchèque à Paris, journaliste et enseignant universitaire, Petr Janyska, a récemment donné à Prague une conférence sur le passé et le présent des relations franco-tchèques. Radio Praha 28-11-2005
「フランス −− 開かれた扉?」チェコの在パリ元大使が語る。
http://www.radio.cz/fr/article/73182

チェコのラジオ局のフランス語サービスに音声とともに掲載されている。外に開かれていることにより世界の文化的・思想的な中心地としての地位も保ち、発展してきたフランスが、外に対し扉を閉ざし内に内にこもっていく現在の危険性を指摘。語る人が語る人だけに重みがある。4分半と短く、全文のテキストもあり聴きやすい。

フランスの社会危機

"La crise sociale française : des nouvelles précarités, des salariés plus isolés" par Eric Maurin LE MONDE | 21.11.05
フランスの社会危機−−新しい形の雇用不安、分断される被雇用者
http://www.lemonde.fr/web/imprimer_element/0,40-0@2-3226,50-712484,0.html

Eric Maurin は、この日記で今のところ最初のほうだけ翻訳してあるリベラシオンの座談会にも参加していた社会学者。今回の騒動の背景にある、雇用不安、労働者間の社会的連帯の解体を解説。この記事を受けてなされた「雇用不安、その現状分析」と題するル・モンド読者とのチャットではさらに広範な問題について質問に応えている ↓。

  • "Précarités, état des lieux" L'intégralité du débat avec Eric Maurin, économiste et directeur d'études à l'Ecole des hautes études en sciences sociales (EHESS) mercredi 23 novembre 2005. LEMONDE.FR | 21.11.05 | 18h27 • Mis à jour le 28.11.05 | 12h21

http://www.lemonde.fr/web/article/0,1-0@2-3226,36-712484@51-705467,0.html

バンリュウ社会学的印象

"Banlieues : Impressions sociologiques, par Danielle Bleitrach.", legrandsoir.info 21 novembre 2005
「バンリュウ社会学的印象」
http://www.legrandsoir.info/article.php3?id_article=2905

「現場」での活動を続けるマルセイユ社会学者が、左翼政党からも労働組合からもうち捨てられたバンリュウの若者たちの現状について報告。バンリュウの今を伝えるのはブルデューの「世界の悲惨」の仕事を受け継ぎ地道に活動を続ける社会学者たちという状況がわかる。

日常茶飯事の辱め

"L'humiliation ordinaire", par Alain Badiou LE MONDE | 15.11.05
「日常茶飯事の辱め」
http://www.lemonde.fr/web/article/0,1-0,36-710389,0.html

高等師範学校で教える哲学者のル・モンドへの寄稿。が、今度の騒動についての哲学的考察ではなく、自らの養子である16歳の黒人の少年が、日常的に警察による差別的で不当な辱めをうけているようすを具体的に描写したもの。理由なく補導されたり拘置されたりが、18か月の間に6回に及ぶこと、警察が高校にすべての黒人の生徒の内申書と写真を要求し学校がそれに応じていたことなどを証言する。この日記の11月14日のエントリーで素描した状況よりひどい。親が社会的に威信の高いグランゼコールの教師なのでル・モンドに投稿できるが、その背後にどれだけのこうしたケースがあるかを必然的に想像させる。ル・モンドには割りと毎日目を通している私も見落としていて、Shiba さんのブログの掲示板で知ったが、この手のものがTVで報道されることがない事を考えれば、大部分のフランス人でも、そうした目にあっている当事者以外は知らない現実。抽象的な政治的・理論的概念やフランスの社会・政治事情に精通していなくても読めるので、フランス語のよめるかたは是非。




■以下は後だしなしの、10月27日(騒動の引き金になった二人の少年の感電死の日)以前に発表されていた記事。サルコジ内務大臣をいだく新内閣の発足で社会的緊張が高まるようすの一端がわかる。


玄関ホールから牢屋へ

"Du hall à la cabane Deux mois de prison ferme pour le squat d'une entrée d'immeuble, un délit créé par une loi signée Sarkozy,"LIBERATION.FR : mercredi 14 septembre 2005
「玄関ホールから牢屋へ。ビルのエントランスに寝泊まりして2ヶ月の禁固。サルコジ法によって作られた犯罪」
http://www.liberation.fr/page.php?Article=323642

騒動の起きる6週間前の小さな三面記事。サルコジ内務大臣の政策によって抑圧的に管理される都市のようす、そこから懲罰的に排除されるホームレスという最弱者の存在を教えてくれる。

サルコジ問題

"Le cas Sarkozy" par Edwy Plenel, Au vif Edito du Monde 2 LE MONDE | 01.07.05 | 13h30"
サルコジ問題」
http://www.lemonde.fr/web/article/0,1-0@2-3232,36-667238,0.html

ル・モンド編集長がル・モンドの週末付録雑誌に7月に書いた記事で、6月に内閣改造があってサルコジ氏が内務大臣に返り咲くと、1ヶ月もしないうちに、その大統領選挙めあての行動が各方面に波風を立てているようすを批判的に記述。

サルコジ氏の目標は警察組識の完全掌握

"L'essentiel pour Sarkozy, c'est le contrôle à tous les étages de l'organisation policière»", Chat avec Fabien Jobard, chercheur au Centre de recherches sociologiques sur le droit et les institutions pénales (CNRS) LIBERATION.FR : mardi 28 juin 2005
サルコジ氏の目標は警察組識のあらゆる部分をコントロールすること」
http://www.liberation.fr/page.php?Article=307309

郊外治安にあたる警察の行動を実地に調査、分析した研究者とリベラシオン読者とのチャット。内務大臣としてのサルコジ氏の治安問題担当者としてのさまざまな面での戦略について語る。見出しの文言に続いて「サルコジ氏の目標は特に、警察の活動状況や犯罪事件についての統計の作成・発表をコントロールすることにある」など、凄いことをこともなげに発言している。が、そう語るFabian Jobard 氏は陰謀論的な言辞を繰り出す自称専門家や政治活動家ではなく、国立科学研究所の研究員で、発表している研究の中では、警察が置かれている状況をよりよく理解させてくれるような実証的分析を行っている。