ノンの翌日 (EU憲法条約国民投票)

昨日の欧州憲法条約国民投票否決を受けた情勢の中で、賛成派(ouistes)、反対派(nonistes)の論争がリベラシオンのフォーラムでまだ延々と続いているのをざっと読む。ルートの書き込みで500エントリー以上。
Non, et maintenant ? http://www.liberation.fr/forum.php?Forum=465
リベラシオンがもともと社説でウィを掲げていることもあり、ここでもウィ派が多いが、大きい新聞としてはここでいちばん左派のノンの意見が読める。ノン派の判断基準のほとんどがフランスの内政にあるので、議論がかみ合っていない。オルターナテイヴを現実的あるいは、理念的にでもいくら肉付けをもって提示するノンの論拠をできるだけ探して読むようにしているが...。

これまでNon vs Ouiの議論は、テレビやル・モンドリベラシオンのような新聞、他人との口頭の議論くらいしか出くわしていなかった。改めてブログ、フォーラムなどネット空間をみると、Non派のブログ、Oui派のブログでかなり熾烈なバトルがあったと知る。数的には圧倒的にNon派の論拠が多い。左派ノンの広がりにネットがかなりの役割を果たしたのではないかと今更ながら思う。

左派のノンの性質と役割が気になって、ネットを調べれば調べると、結局はナショナリズム反グローバリズムのレトリックで偽装したものではないかとの思いが強まる。一昨日「残念ながら左翼のノンは、極右のノンほどではないにせよ、最初にノンありきがゆえの事実にもとる主張が多い」と書いたが、左翼のノンに極右よりもデマが多かったと認識を改める。極右は拝外主義を隠す必要がないからごまかす必要がない。死んだ子の歳を数えるようだが、論争になった条文について再度、憲法条約をつらつら読みながらそんなことを思う。。

ウィ派とノン派の激しい論争の最中に、「ノン派の問題提起のおかげで人々がこの憲法のことを詳しく知ることとなった」と、ノン派が自画自賛したり、ジャーナリストが落とし所を見つけようとしていたが、ネットでの宣伝戦をみていると、かならずしもそう言えない。熱心な論客たちはたしかに、細かい点にわたって攻防戦を繰り広げているが、圧倒的に多くの宣伝がせいぜい一ダースほどのポイントからなるいわゆる「テンプレート」でなされている。この程度のプロパガンダで判断がなされていたのだととしたら、むしろ民主主義にとって極めて危険な兆候とえいる。フランスの左派は、アメリカの大統領選挙を笑えない。

国内メディアの関心は、午前中の投票行動の分析を経て、もっぱら新首相の人選に移っている。ド・ヴィルパンかサルコジか。社会政策への取り組みを強調するために、この面で人当たりのよいジャン=ルイ・ボルロという線もあると思う。正直のところ、今の時点での仏の政界の動きにはあまり関心がない。というより、それを関心の中心に移すことは、結局「制裁投票」の論理につきあうことになる。

リベラシオンル・モンドの社説を−−時間があればもう少し詳しく取り上げるかもしれないが−−ひとまず見出しだけ。

リベラシオン 社説 「マゾヒズムのきわめつき」 セルジュ・ジュリー
Editorial Chef-d'oeuvre masochiste Par Serge JULY

lundi 30 mai 2005 (Liberation - 06:00)

リベラシオンの読者層は、ル・モンドにあきたらない左派(昔風にいえば新左翼)が多く、今回の左派のノン派の層とかなり重なる部分があるはずだが、リベラシオンでさえ(にさえ)ついていけないほど、この左派世論の乖離が大きいことになる。これも極めて不安な兆候。リベラシオンのフォーラムでこの社説に対する激しい批判が一定数ある。68年世代にも左派の若者にもポピュラーなダニエル・コーン=ベンディットでさえ、ついに、このあたりの左派ノン派層に対し、知的権威も情緒的影響力も持つことはできなかった。

ル・モンド 社説 「袋小路」 J.M.コロンバニ
Editorial L'impasse, par Jean-Marie Colombani

LE MONDE | 30.05.05 | 13h49 • Mis à jour le 30.05.05 | 14h21

ル・モンドの社説中、 このブログでも一昨日、頭に血をのぼせながらふれたJacques Nikonoff (Attac代表)の寄稿記事をやり玉にあげる一節がある。私自身、誰のものにせよ意見記事を紹介するときに、一昨日のような感情的な強い調子の批判とともに触れたのは(たぶん)初めてだと思うが、ル・モンドでも、自分のところの論壇への投稿記事をこんなふうにやり玉にあげるのは珍しい。J.M.コロンバニもよほど腹に据えかねたものと見える。


ウィ派とノン派のブログ戦の話題にからめてついでに、前にid:yskszkさん−−たしかにコメントが書き込めません−−も関心を寄せていたフランスのブログ普及の最近の状況について紹介しようと思ったが、これは明日(以降)の書き込みで。

◆メディさんの、media@franchophnie に、今回の投票行動の分析について、視覚的にもわかりやすい詳し紹介あり。